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 そしてプロメテウスは太陽中心説と、地球中心説の、宇宙の絵を二枚の紙 に描いて、動くように命じた。するとそれらは動き始めた。なぜならそれらは可動インキという、特殊なインクを使って描いたからである。そしてプロメテウスは「君。地球中心説の太陽を、紙の中央に固定してみたまえ」と言った。マトゥサラは地心説の紙を取ると、紙の真ん中に印をつけてギベオンと名付けて「日よとどまれ。ギベオンの上に」と言った。それはヨシュア記の第十章十二節であった。すると地心説の太陽が、ギベオン・マークの上に来て止まった。それからプロメテウスが地心説の紙と、日心説の紙を重ねて、光に透かして見せた。マトゥサラとバトラーチェがそれを見た時、それらはぴったりと重なって動いていた。プロメテウスは「人が地上から空を見ている限り、地球中心説も、太陽中心説も、同じに見える」と言った。マトゥサラは地心説の紙を取ると、『アヤロンの谷』という印をつけて「月よとどまれ。アヤロンの谷に」と言った。すると月がアヤロンの谷マークに近づいて来た。そして全ての天体が止まると、軋むような音を立てた。そして、印の上に固定されている太陽と月以外の、全ての天体が、滅茶苦茶に動き始めた。するとバトラーチェが「ぎゃはは壊れたぞ!」と言って笑った。プロメテウスは「太陽から月間での距離は一定ではない。惑星達は、それぞれの外部重心の周りを回っているが、その動きが地球を回る太陽と、全く同じである事に気がついているか」と言った。マトゥサラは「それは気がつかなかったわ」と言った。プロメテウスは日心説の紙を取ると、線を書き込んで『アヤロンの谷』と名付けて「凹んだ点はだだの穴だ。谷なら線になるはずだ。もう一度、月が谷にとどまるように命じるといい」と言った。マトゥサラは了解すると「月よとどまれ。アヤロンの谷に」と言って、その紙 を見た。すると月がアヤロンの谷と名付けられた線の上を往復し始め、地球は軌道の一部を往復し始め、他の惑星達は、前進と後退を繰り返しながら、それぞれの軌道を回り始めた。その時バトラーチェは、壊れた地心説の紙を、ピンポンゲームに仕立てて遊んでいた。マトゥサラは「もしエノス書が正しいなら、雲は東から西に流れるはずよね。高い場所にある物ほどゆっくり西から東に動くから。だけど実際には、雲はだいたい西から東に流れる事が多いわ。そして恒星達も動かないはずなのに、少しだけ動いてるわ」と言った。プロメテウスは「雲が西から東に流れるのは中緯度だな。赤道では東から西に流れる。赤道反流だな。地球は丸くて自転しているから、高緯度と低緯度の回転速度が違うからだ。赤道の雲は赤道と共に速く動きながら高緯度に流れるが、雲の動きは速いままなので、ゆっくり回る高緯度では、西から東に流れてしまう。恒星達の動きは固有運動という。恒星達も太陽も、それぞれが勝手な方向に動いている。地球と惑星達は、太陽の動きと公転運動を両方持っている。恒星達はどれも非常に遠くにあるので、その動きはごく僅かに見える。恒星達は、銀河中心の周りを、数億年かけて回っている。銀河は多くの恒星の集まりだ。そして銀河中心は太陽や、その周りを回る惑星から見て射手座の方向にある。太陽と、惑星のある空域を太陽系という。そして太陽系は、ヘラクレス座の方向に向かって進んでいる」と言った。マトゥサラは「それじゃあ銀河中心が、宇宙の中心なの?」と言った。プロメテウスは「いや、宇宙には、我々の銀河の他にも沢山の銀河がある。本当の宇宙の中心は誰も知らない」と言った。するとマトゥサラが「神樣が知ってる!」と言い、プロメテウスが「待て! 私も知らないんだ!」と言った。