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 マトゥサラは「コウモリはどうして真っ暗でもぶつからずに飛べるの」と言った。プロメテウスは「コウモリは、超音波を出して、その木霊を聞いて、障害物の位置と距離を知るんだ。超音波は波長が高すぎて、人間には聞こえない。もし、コウモリの超音波が人間に聞こえたら喧しいだろう と言った。マトゥサラは「飛行機は鳥よりも高く飛べるけど、天界には行けないわ。巨人達はどうやって天に行く事が出来たの」と言った。プロメテウスは「巨人達はロケットという物を持っていた。ロケットとは、爆発物を中に持っている管だ」と言った。マトゥサラは「ロケットって下を向いている大砲ね」と言った。プロメテウスは「そうだ。その大砲は、下を向いていて、弾丸が無くて、連射が可能なのだ。しかしこの時代の人々は、そのロケットを作る技術を持っていない」と言った。マトゥサラは「その巨人はもしかして、ガンダムみたいなロボットだったの?」と言った。プロメテウスは「ガンダム? ・・・まあ、その通りだ。しかしこの時代の人々は、そのロボットを作る技術も持っていないな」と言った。マトゥサラは「長い冬の後の歴史ははっきり知られているわ。その前の歴史は、神話、伝説、おとぎ話としてしか知られてないわ」と言った。プロメテウスは「暦法については知っているか。現在使われている暦は、一年は、平年だと三百六十五日、四年に一回の閏年だと三百六十六日だな。二に四の倍数を足した年が閏年になっている」と言った。マトゥサラは「平信徒と聖職者の見分け方って知ってる? 聖職者は詩編第五十一章をラテン語で、空で読めるのよ。だけど暗唱出来ない聖職者もいるわ」と言って、紙にミセレーレ を書いた。そして彼女はプロメテウスに説明し始めた。

 「詩編第五十一章は、ラテン語だと三分くらいで読み終わるの。それは、ギリシャ語で書かれた七十人訳聖書から翻訳されたのと、ヘブライ語で描かれたマソラ本文から翻訳された物の、二種類が載っているの。それらは三十三カ所が違っているわ。伝説では、七十二人の学者達が七十二日かけてギリシャ語に翻訳して、その翻訳は完璧だったと言うけど、それは正しくない。それは悪訳だわ。無批判に読むべきじゃないわ。」

 プロメテウスがマトゥサラに「君は聖職者なのか」と言うと、マトゥサラは「違うわ。私は平信徒よ。平信徒で、詩編ラテン語で諳んじる人は沢山いるわ。そして聖職者でそれが出来ない人も沢山いるわ」と言った。プロメテウスは「エジプトの暦は、太陽とシリウスが一緒に上る時に始まる。偶然にも、太陽とシリウスは、三百六十五日六時間周期で、最接近する。このような恒星は、シリウスの他には無い。ユリウス暦は、三百六十五日と六時間だ。しかし実際の一年は、三百六十五日五時間四十八分と、四十五と六百二十五分の六百二十一秒だ。そこでグレゴリオ暦が作られた。それ四百年に三回閏年を省く。それは三百六十五日と五時間四十九分十二秒だ。ユダヤ暦は、ティシュレ、ヘシュワン、キスレウ、テベト、シェバト、アダル、ベアダル、ニサン、イヤル、シワン、タンムズ、アブ、そしてエルルから出来ている。ティシュレとシェバトとニサンとシワンとアブは三十日、テベトとベアダルとイヤルとタンムズとエルルは二十九日、ヘシュワンは通常は二十九日だが三十日の事もあり、キスレウは通常三十日だが二十九日の事もあり、そしてアダルは平年は二十九日で閏年は三十日。そしてベアダルは閏年にだけある。閏年は十九年間に七回ある。ニサンの月の十五日は、月曜日や水曜日や金曜日にはならない。そしてそれは春分の後の、最初の満月の日になる。クムランの暦は、三百六十四日だ。それは常に水曜日に始まる」と言った。マトゥサラは「クムラン暦では閏年は二十八年五回なの?」と言った。プロメテウスは「それは判っていない。最後の晩餐は、マタイとマルコとルカによれば過ぎ越しの日だが、ヨハネによれば過ぎ越しの前日だ。誰が蒸気機関を発明したか知っているか」と言った。マトゥサラは「ジョージ・スティーヴンソン・スティームソンでしょ」と言った。プロメテウスは「最後のスティームソンは余計だろ。実際の所、スティーヴンソンは、実験をしただけだ。リチャード・トレヴィシックがそれを作ってキャッチ・ミー・フー・キャンと名付けた。そして彼の孫のリチャード・フランシスとフランシス・ヘンリー・トレヴィシックが日本で作った」と言った。マトゥサラは「エウピプトンってギリシャ語で『善き墜落者』という意味よね。それはどれくらいの長さなの?」と言った。プロメテウスは「大体五百七十三メートルくらいだ。人間が落ちる時、五百七十三メートル落ちた所で空気の抵抗で、落下速度が一定になる。それを終端速度という」と言った。マトゥサラは「へミガイオンってギリシャ語で地の半分という意味ね。それは六千三百七十八点十四キロくらいかしら。そしてエピタキュンセーはギリシャ語で加速度という意味だわ。それは大体九点七八メートルね」と言った。そして彼女はバトラーチェに「あなた分かるかしら」と言った。するとバトラーチェは「ギリシャ語なんか分かるか! !」と言った。マトゥサラは「トゥート・エイミ・テレオース・プロス・エメ・へッレーニカ !」と言った。するとプロメテウスは「ギリシャ語は正しく喋りなさい。そこは三人称単数じゃないか」と言った。そしてマトゥサラは「トゥート・エスティン・テレオース・プロス・エメ・ヘッレーニカ !」と言って笑った。プロメテウスは「知っててふざけているのか。まあ、外に出よう」と言った。そして三人は外に出た。しばらくして、地層 が剥き出しになった崖の近くに来た。プロメテウスは「これが逆断層だ。両方から押されると、このようになるんだ。両方から引っ張られると、正断層になる。そして、両側が部部の方向に動くと、右ずれ断層や左ずれ断層になる」と言った。その時マトゥサラは、二匹の魚の化石が地層の中にいるのを見つけて「おおロミオ。あなたはなぜロミオなの」と言った。そしてバトラーチェが「へいジュリエット。お茶しないか」と言った。するとマトゥサラは「そんな台詞無いわ!」と言ってバトラーチェを蹴飛ばした。マトゥサラは「ローマ人が岩を飛ばした時、ユダヤ人はヘブライ語で『息子が来るぞ』と叫んで避けたわ。息子というヘブライ語はハ・ベンで、岩というヘブライ語はハ・エベンね。戦っている時は早口で喋るから、ハ・エベンがハ・ベンに訛ったんでしょう」と言った。プロメテウスは「それはフラビウス・ヨセフスの『ユダヤ戦記』の第五巻の二百七十二節だな。原文はギリシャ語でホ・ヒュイオス・エルケタイ と書いてある」と言った。マトゥサラは「岩を二つに分けると父親と息子になるね」と言った。プロメテウスは「父親はヘブライ語でアブで、息子はベンだな。ヘブライ語は普通は子音文字と句読点だけで書かれる。詩や子供向けの本は、子音文字と句読点と母音符号で書かれる。そして聖書は子音文字と句読点と母音符号とアクセント記号で書かれている。しかしタルムードは子音文字だけで書かれていて、句読点は無い」と言った。