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 八月七日、マトゥサラとバトラーチェはピサに来た。マトゥサラは、メティデスがなぜ消失したかを調べるために図書館に行った。彼女は科学雑誌を開いた。それにはこう書かれていた。ニコラウスという天文学者は、宇宙の中心は地球ではなく太陽だと主張している。それは太陽中心説であり、初代教皇エノスが書いたエノス書の地球中心説に反している。エノスが初めて神の聖なる名を呼び始めて以来、それだけが権威をもった源泉となっていた。それは地球中心説を唱えていた。ニコラウスの説は、学会に反響を起こした。エドモンドという天文学者は、恒星を観測していて固有運動を発見した。なぜならそれらの位置が、エノス書に書かれているデータと異なっていたからである。エノス書によれば、太陽と惑星と恒星は、アストロゲンという物質から出来ている。純粋なアストロゲンは24カラットで青色をしており、純度が下がると共に、白、黄色、橙色を通って赤色になる。エドモンドは、恒星は全て遠くにある太陽だと言った。そしてそれらはそれぞれが、好き勝手な方向に動いている。これは二十一の、明るい星の表 である。それにはエノス書によるデータとエドモンドの観測によるデータが載っている。ベニヤミンは、雷の正体は電気だと主張している。その根拠はこうである。エノス書によると、火と雷は共にフロギストンである。火は、雲と氷と水に触れると雷になるので、彼は燃える松明を水に浸けて雷を集めようとした。しかし水の底には雷が全く溜まらなかった。それから彼は雷雲の下で凧を上げた。その時に雷の火花を見つけたが、それは電気の火花と同じ物であった。マトゥサラがいる世界では、神の子イエスが彼等の罪を背負って死んで甦り、彼等を許して天に昇ったと信じられている。そして彼は神の怒りである雷を引き受けて、彼等を護って許し続けている。そして全てのイエス像は金属で作られ、建物を通して地下に繋げられている。これは避雷針と同じ作り方である。しかしベニヤミンは、イエス像はイエス・キリストを象らなくても、金属で出来てて地面に繋がってさえいれば、雷避けとして訳に立つと主張した。その時マトゥサラは、何が真実だろうと疑問に思った。その時、バトラーチェがカエルの図鑑を持って来て開くと、マトゥサラに見せた。彼は「このカエルは可愛い。こいつは美人だ。こいつは愛嬌がある・・・」と言ったが、マトゥサラにはどのカエルもただのカエルにしか見えなかった。そして彼女は「川辺共済はカエルの絵を沢山描いたわ」と言って、バトラーチェに一冊の本を渡した。
 その夜、マトゥサラは星を観測した。その時彼女はアドハラアルデバラン、アルタイル、ベテルギウス、カペラ、デネブ、ポルックスプロキオン、レグルス、リゲル、シリウス、そしてヴェガを見る事が出来た。それらの位置は、エドモンドの観測結果と同じであった。フォマルハウトは南の地平線に近かったので見えにくかった。アルクトゥールスは、暗くなる時に沈んで朝昇るので見えにくかった。スピカは朝になる直前に昇るので見えにくかった。そしてカノープス、ミモサ、アクルックス、ハダール、アルリジル、アンタレスアケルナルは観測出来なかった。その時マトゥサラはうお座ゼータ星、うお座88番星、そして失われた小さな星も観測した。しかし失われた小さな星は見つける事が出来なかった。これがその三つの星の位置 である。
 翌朝、八月八日、バトラーチェはスープを作った。マトゥサラがそれを見ると、沢山のゴキブリがスープの中に浮いていた。バトラーチェは「栄養いっぱい入ってるぞ!」言った。するとマトゥサラはスープをバトラーチェの顔に投げつけて「こんな物食べたら死んじゃうわ!」と叫んだ。
 マトゥサラとバトラーチェはピサの斜塔の前に来た。その時バトラーチェが「ここでヘラクレスとサムソンが力比べでもしたのか?」と言った。マトゥサラはプッと吹き出すと「それについては知らないわ。でもガリレオ・ガリレイが重い物と軽い物 を落としたとは聞いた事があるの。その時両方とも同時に地面に着いたわ。彼の父のヴィンチェンツィオ・ガリレイは、オペラの父でもあるのよ」と言った。バトラーチェは「ピサの斜塔!」と言って、ミニチュアの塔に変身すると、くにゃくにゃ踊りを始めた。