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 ある日アーティミドアは図書館に行った。ホテル・イスカンダリアに帰る時、コオロギが鳴いていた。アーティミドアは、ネズミが石の下で鳴いているのかと思って、石を一つひっくり返した。すると何匹かのコオロギが石の下から逃げて行ったが、ネズミは一匹もいなかった。コオロギは、バッタの胴を短くしたような姿で、色は黒かった。コオロギ達は戻って来た。するとアーティミドアは驚いて、弾かれるように後ろに跳んだ。それから部屋に行くと、母のダイアナに電話をかけた。アーティミドアはドイツ語で「今日ね、石の下でネズミが鳴いてたよ。だけどその石をひっくり返しても、ネズミが見つからなかったわ」と言って、口笛を吹いた。するとダイアナはドイツ語で「そんな鳴き声ならコオロギでしょ。コオロギはネズミじゃなくて虫よ」と言った。アーティミドアは驚いて「虫がどうやって声を出すのかしら」と言った。ダイアナは「コオロギは羽根をこすり合わせて鳴くのよ」と言った。するとアーティミドアは、二匹のゴキブリ達が、二本足で立って、互いに背中をこすり合わせるのを想像して「それじゃあ一匹だけじゃ鳴けないじゃないの」と言った。ダイアナは「一匹だけで鳴けるわ。羽根を二枚立てて、こすり合わせるの。コオロギはバッタを短くして、黒くしたような姿よ」と言った。アーティミドアは「バッタって何」と言った。ダイアナは「バッタは草むらに住んでいるの。そしてイナゴは食べられるバッタよ」と言った。アーティミドアは「私イナゴなら知ってるわ。聖書によく出てくるもん」と言った。ダイアナは「聖書にはバッタも三回出るのよ。イナゴは見た事ある?」と言った。アーティミドアは「イナゴも見た事無いわ」と言った。電話で話し終わった後、アーティミドアは、昆虫の図鑑を開いた。アーティミドアは、バッタとイナゴを見分けられなかった。