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 そしてマトゥサラは、森に僕を捜しに行った。その時彼女は黒豹を見つけた。そして「ロデム! 私の僕になれ!」と叫んで黒豹の後を追い始めた。なぜなら彼女はその黒豹を僕にしたかったからである。その時その黒豹は藪の中に逃げ込んだ。彼女は走って来ると、ガラスの卵の内一つをその藪の中に投げ込んだ。すると一匹の蛇が藪の中から現われて。彼女の足下に来た。彼女は蛇に「黒豹を見ませんでしたか」と尋ねた。すると蛇は「見ておりません。ご主人様。私の舞を見て下さい」と言って「ヘービヘービヘービヘービ、ヘビダーンスー」というかけ声と共にくにゃくにゃと踊り始めた。その時彼女は周りを見回して、黒豹が逃げて行くのを見つけた。そして走って後を追い、ガラスの卵を一つ投げつけた。そしてその蛇もマトゥサラの後に続いた。黒豹とガラスの卵は共に藪へ飛び込んだ。すると一匹のナメクジがその藪の中から現われて、蛇に跳びかかるとあっという間に食べてしまった。彼女はナメクジに「黒豹を見ませんでしたか」と尋ねた。するとナメクジは「見たよーん」と答えた。マトゥサラは「それでどこに行きましたか」と尋ねた。ナメクジは言った。「知らないよー。知らないあるよ。ないよあるよ。あるないあるよ。犬が居ぬわー、猫が寝込んだ、馬が埋まった、駒が困った、布団が吹っ飛んだ、・・・」と。マトゥサラは大きな石をナメクジの上に落とすと周りを見回し、逃げて行く黒豹を見つけた。そして彼女は黒豹の後を追って行き、ガラスの卵を投げつけた。その時、石の下から這い出したナメクジは木の枝を引っ張っていた。最後の卵は黒豹に当たらないで藪に飛び込み、黒豹は逃げて行った。その時ナメクジがマトゥサラのそばに落ちて来て「見つけただー。ただ今黒豹ひょうっと逃げたーキター」と言った。その時蛙が藪から出て来ると、ナメクジに跳びかかって食べた。そしてマトゥサラに「おらは温泉蛙で、あんたの僕だ。温泉蛙は珍種で学名はラナ・テルマルムだ」と言った。その時マトゥサラは「何たる不幸だ」と叫んだ後、蛙に向かって「あなたの名前はバトラーチェだ。ギリシャ語で蛙と言う意味のバトラコス とウィーダのフランダースの犬に出て来るネロの飼い犬のパトラッシュにちなんだ名前だ」と言うと、天に向かって高笑いをした。そしてバトラーチェはお辞儀をした。マトゥサラは「あなたは何が出来ますか」と言った。するとバトラーチェは「おらは何にでも変身が出来る」と言った。マトゥサラは「それでは猫になって」と言うと、バトラーチェは猫に変身した。そしてマトゥサラはその猫を抱き上げると「鳴いてみて」と言った。するとその猫は両側の頬を膨らますと、ケロケロ と鳴き始めた。するとマトゥサラは「そんな猫がどこにいるか」と叫んで木に投げつけると走り出した。
 その夕方、マトゥサラは一人で家に向かっていた。その時金星と三日月が西の空に見えていた。三日月と金星の角距離は二十一と三分の二度程であった。それはルナ・ヴィーナスと呼ばれていて、めったに見られない事から見た者に幸運を授けると言われている。マトゥサラは、そんなのは迷信だと思った。金星が沈んだ時、スピカしアルクトゥールスが見え始めた。月はスピカとアルクトゥールスの間にあった。そして月とスピカの角距離は五度程であった。土星はさそり座とてんびん座とへびつかい座に囲まれていた。マトゥサラは東の空を見た。その時木星みずがめ座うお座の間にあった。そして彼女は家に着いた。しばらくして、ドアのブザーが鳴った。マトゥサラはドアを開けた。するとタキシードを着た猫が花束を持って立っていた。猫は「好きです。結婚して下さい」と言った。マトゥサラは「まあバロン。人間は蛙とは結婚出来ないのよ。それに・・・」と言って、くすくすと笑った後、大笑いをした。それから「どうしてここに来たの」と言った。すると猫はバトラーチェに戻ると「おらはあんたの僕だから」と言って、跪いた。マトゥサラは「今は夏だけど、近いうちに冬になるわ。服を着たほうがいいね」と言って、バトラーチェ にジーンズをはかせた。それは彼女が幼少時にはいていた物であった。そして彼女は「キャプテン・ハーロックみたい! 私の足は太いけど貴方の足は細くてかっこいいわ!」と歓声をあげた。そして彼女は豹の毛皮のコートも着せた。そのコートもまた、彼女が幼少時に好きな物であった。それは小さいのでもはや着る事が出来なかった。