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 翌日の八月九日、マトゥサラは鱈子スパゲッティーを作った。するとバトラーチェは「うおっ! うまそうなミミズだ!」と歓声をあげて食べた。そして吐き出すと「このミミズ偽物じゃないか!」と叫んだ。その時マトゥサラはむっとして、ドンブリを持って来た。そしてバトラーチェが中を見ると、ヘビがドンブリから跳び出して彼に巻き付いた。するとバトラーチェは悲鳴をあげて走り回り始めた。その時マトゥサラは「そのヘビは毒を持ってないわ。怖がらなていいよ。」と言って、高笑いをした。
 それからマトゥサラとバトラーチェはヴァティカン図書館に来た。その時マトゥサラは、一人の僧侶を見ると、駆け寄ってポルトガル語で「ボア・タルデ! コン・リセンサ・エ・オ・ジョアン・ロドリゲス・ツズ? メウ・ノメ・エ・マトゥサラ・エト・ハンマッブール・マイム・ガル・ハアレス・フロス・イアト・スメス・カドマイオス・ウサフ・イアト・オアウ・ベン・メム・ウタウ。」と言った。するとその僧侶はスペイン語で「ああ、いかにも私はロドリゲスだ。セニョリータ・マトゥサラ。あなたの名前はギリシャ語のようだが、そのアクセントだとスペイン人だね。スペイン語で話そう。」と答えた。そして二人はスペイン語で話し始めた。マトゥサラは「あなたは日本語の教科書を書いた人ですね。尊敬してるわ。私は日本の漫画とアニメが好きなので、日本語は少し分かるわ。」と言った。そして二人は日本について話し始めた。マトゥサラは金魚がジューサー の中にいる事に気づいて「マワスナって、日本語で回しちゃ駄目って意味じゃないの!」と叫んで笑った。するとバトラーチェもその金魚に気づいて「うおっ! 危ねえ!」と叫んだ。金魚が入っているジューサーには「回すな」と日本語で書かれた紙が貼り付けてあった。ロドリゲスは「あれは金魚といって、フナを観賞用として改良して作った物だ。日本からの土産だ。カミカゼとはどんな意味かを知っているかね。それは神の風という意味だ。ある時モンゴルが中国を征服してさらに、日本も制服しようとした。日本では、夏から秋にかけて台風が来る。日本の海軍は速やかに撤退した。なぜなら風が強くなったからだ。しかしモンゴル人は日本の気候を知らずに戦い続けた。そしてモンゴルの艦隊は転覆した。そして日本がその戦いに勝った。こうしてその言葉が産まれた。後に、特攻隊がカミカゼと名付けられた。」と言った。それからマトゥサラは「冬将軍は、ナポレオンがロシアに攻め込む前に凍えさせた」と言った。それからバトラーチェが言った。「日本の夏の夜は蒸し暑い。ある夏、ユダのヒゼキヤ王が来日した。熱くて寝られなかったので、ヒゼキヤはホテルの外に出た。その時突然昼になった。ヒゼキヤは、なぜ太陽が北にあるのかと言って、反対方向を指差した。そして南を指差した。すると太陽が動いた。ヒゼキヤは、すまん。日本は南半球にあるから太陽は南に出るんだった。すると太陽がまた動いた。するとヒゼキヤは、そっちは南だから動かなくていいと言った。すると太陽が元の場所に戻った。ヒゼキヤは、間違った! 日本は北半球だった! 、と言った。すると太陽が動いた。ヒゼキヤは言った。太陽は西から昇って東に沈む・・・、あれ! 間違った! その時突然夜になり、目を回した大狸が落ちて来た。」その時マトゥサラは笑い過ぎて窒息しそうになっていた。マトゥサラは「日本の文学は、ハンガリーと同じく死、特に自殺を美化する傾向がある」と言った。ロドリゲスは「死が美化される傾向は、源義経という、悲劇的な英雄の時代から始まった。日本人の命名方は、姓が先で、名が後に置かれる。しかし足利尊氏以前は、姓に『-の』が付けられていた。義経は子供の頃、牛若丸と呼ばれていた。彼は日本人の間で非常に人気がある」と言った。マトゥサラは「その人知ってる! すっごくハンサムで身軽なんだよ! 戦争の時に、船から船に跳んで、沢山の敵を倒したんだ! それから巨人に勝って、それ以来その巨人は彼の家来になっった。その巨人は弁慶だよ! 義経を逃がすために敵の前に立ちはだかって、立ったまま死んだんだ」と言った。ロドリゲスは「日本人の多くは自殺を罪とは考えず、生まれ変わりを信じている。そして不名誉よりは死を選ぶ」と言った。マトゥサラは「宇宙戦艦ヤマトの二番目の映画が公開された時は恐ろしくなったわ。その後、その映画がテレビ化されたの。その時、皆殺しストーリーが生き残りストーリーに改められて、その後も物語が続いたの。ヤマトが好きだったから、その時は嬉しかったわ」と言った。ロドリゲスは「七夕を知っているかな。それはアルタイルとヴェガの祭りで、七月七日に祝われる。日本ではアルタイルは彦星と呼ばれて、ヴェガは織り姫星と呼ばれていている。織り姫は良い織り手で、彦は良い牛飼いだった。そして彦と織姫は結婚した。しかしそのあと二人は仕事をしなくなった。そこで神様が怒って、一年に一回だけ会えと言って、二人を天の川の両側に住ませた。二人が会う日は第七月の第七日である。もし雨が降ったら二人は会えない。日本では天の川はアマノガワと呼ばれている。それは天国の川という意味だ。改暦前、七夕は太陰暦の第七月の第七日に祝われていたが、現在は七月七日に祝われている。日本の雨期は六月に始まり、七月に終わる」と言った。するとマトゥサラが「日本のジュリエットは何年かに一回しかロミオに会えないわけ!? 日本人はユダヤ人を見習うべきだわ! 日本の太陰暦 ってどんなの?」と言った。するとロドリゲスは「月は新月の日に始まる。そして第一月は第二節季に一番近い新月の日に始まる。節季とは、日本の伝統的な太陰太陽暦の、天文学的な出来事あるいは自然現象を表す、二十四の期間だ。そして第四節季は春分の日に始まる。そして閏月は数年に一回挿入される。そして第二の月は春分を含んでいて、第五の月は夏至を含んでいて、第八の月は秋分を含んでいて、第十一の月は冬至を含んでいる」と言った。つまりうお座生まれの期間が始まる日に一番近い新月の日が元日である。するとマトゥサラは「わあ! すると今年は平年で三月四日に始まるんだ! そして第七月の七日は九月三日で、今日は第六月十二日ね! 日本の月に名前はあるの?」と言った。ロドリゲスは「睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、葉月、長月、神無月、霜月、そして師走だ。しかし神無月は出雲では神有月と呼ばれる。なぜなら日本神話の神々は、その月に出雲で開くからだ。神無月は神がいない月という意味で、神有月は神がいる月という意味だ。来年の復活祭はいつだと思うか?」と言った。するとマトゥサラは「春分の日が四月十一日で、その後の満月が五月六日で日曜日だから、復活祭は五月六日ね。改暦はいつだったの」と言った。ロドリゲスは「皇紀2532年師走二日の次が、西暦1873年の元日だ」と言った。マトゥサラは「火星の一日は地球の二十四時間三十九分三十五点二十五秒ね。火星で使うカレンダー は、一年は十二か月。一月は五十六日、ただし第三月、第六月、第九月は五十五日。第十二月は、平年は五十五日で閏年は五十六日。奇数の年と、十で割れる年と、六百四で割れる年は閏年よ。春分の日は第一月の一日、遠日点の日は第三月の三十三日、夏至の日は第四月の二十二日、秋分の日は第七月の三十日、近日点の日は第九月の三十五日、そして冬至の日は第十月の十三日。おひつじ座生まれは第一月の一日から第二月の四日まで、おうし座生まれは第二月五日から第三月の十一日まで、ふたご座生まれは第三月十二日から第四月二十一日まで、かに座生まれは第四月二十二日から第五月二十八日まで、しし座生まれは第五月二十九日から第六月三十日まで、おとめ座生まれは第六月三十一日から第七月二十九日まで、てんびん座生まれは第七月三十日から第八月二十六日まで、さそり座生まれは第八月二十七日から第九月十九日まで、いて座生まれは第九月二十日から第十月十二日まで、やぎ座生まれは第十月十三日から第十一月五日まで、みずがめ座生まれは第十一月六日から第十一月五十六日まで、そしてうお座生まれは第十二月一日から大晦日まで」と言った。ロドリゲスは「SFを書く気は無いのか? 日本の神話には二つの聖典がある。それらは古事記日本書紀だ。古事記は全三巻で、日本書紀は全三十巻だが第一巻は失われている。それらはまとめて記紀と呼ばれている。古事記天地創造から、三十三代目の推古天皇まで書かれている。そして日本書紀天地創造から四十一代目の持統天皇まで書かれている。それらの間には多少の違いがある。それは創世記とヨベル書を共に聖典としたような物だ。日本書紀は漢文 で書かれている。その頃、中国がアジア文化圏の中心であった。そして日本の賢者達はそれを書いていた。しかし古事記は日本語で書かれた。なぜなら他の賢者達が、日本の事は日本語でしか書けないと考えたからだ。しかしその頃日本にはまだ文字が無かった。それで漢字の発音だけで、意味を無視して書いた。それらの、意味を無視した漢字は仮名 と呼ばれた。それは偽の文字という意味である。そして中国語の文字は真名と呼ばれた。それは真正な文字という意味である。その後、学者達が仮名を簡略化して、角張った文字を作って片仮名と呼んだ。それは仮名の欠片という意味である。そして女性達が草書体で書いて平仮名を作った。それは簡単な仮名という意味である。片仮名はへブル文字の様に力強く、平仮名はアラビア文字の様に美しい。紀貫之は、『をとこのすなる日記といふものを、をむなもしてみむとてするなり』と書いた。男がつける日記という物を、女の私もつけようと思って、日記をつけるのですと、いう意味だ。彼は男性であったにもかかわらず平仮名で書いた。なぜなら平仮名が実用的だと思ったからである。正式な文書は漢文で書かれていた。しかしその文法は日本語とは違っている。そこで学者達は文法記号を作った。それ故、漢文を日本語として読む事が出来る。その原文には変更を加える必要は無い」と言った。マトゥサラは「雷の神様はどうしておへそを取るのかしら」と言った。するとロドリゲスが「日本の夏は暑いけど、雷が鳴る時は急激に気温が下がるのだ。それで母親達は、子供に服を着せるために脅すのだ」と言った。バトラーチェは「ヒトにあってカエルには無い物が三つ、それはへそが一つとおっぱいが二つだ」と言った。するとマトゥサラは真っ赤になってバトラーチェに椅子を叩きつけた。ロドリゲスは「エジプトのツバメは腹が赤いが、日本のツバメは腹が白い。エジプトの海は潮の満ち引きが無いが、日本の海は満ち引きがある。電車が空いている時、エジプトの客は他の客の隣りに座ってお喋りをするが、日本の客は空席の真ん中に座って黙る。踊る時、エジプトの娘は尻を振るが、日本の娘は胸を揺らす」と言った。するとマトゥサラは両腕を広げて胸を揺らした。するとロドリゲスが「やめなさい!」と言った。ロドリゲスは「日本神話には、太陽の女神天照大神が登場する。ある時、彼女は岩の中に隠れた。それで夜が何日も続いた。その時、天宇受賣命という巫女が裸になって踊った。それで見ている人達が大笑いをした。外が騒がしかったので、天照大神は不思議に思って顔を出した」と言った。マトゥサラは「それはいつ起こったの。ヨシュア? それともヒゼキヤ王の時代なの? イスラエルと日本の時差はどのくらい?」と言った。ロドリゲスは「イスラエルと日本の時差は七時間だ」と言った。マトゥサラは「六時から十八時までを昼とするなら、日本が十三時の時イスラエルは六時で、日本が十八時の時イスラエルは十一時ね。イスラエルが昼で日本が夜の時間は七時間だわ」と言った。その時ロドリゲスは「君はインマヌエル・ヴェリゴフスキーみたいだ! 彼は世界中の伝説を合わせて、金星が木星から飛び出したと考えたんだ」と言った。マトゥサラは「彼ってユダヤ人ね。ユダヤ人は大変な読書家なのよ。そして日本人はユダヤ人程には本を読まないわ。それなのにユダヤ人の近視は少なくて日本人の近視は多いね。ユダヤ人には秘密があるわ! 私は日本人程には本を読まないのに目が近いわ」と言った。するとロドリゲスは紙に何かを書くと、その紙を二つに折った。そして彼女に見せて「読めるか」と言った。マトゥサラは「見えないわ」と言った。ロドリゲスは紙 を広げてから見せた。するとマトゥサラは「バカ! アホ! マヌケ! 日本語の悪口ね」と言った。ロドリゲスは「よく見なさい」と言って、紙をマトゥサラに渡した。するとマトゥサラは「バカ! アホ! アスカ・・・、アスカだ! これらの字は似ているわ!」と言って、大笑いをした。