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 マトゥサラとバトラーチェはスイスに来た。二人は山々の前に来た。マトゥサラが見上げると、カラスが飛んでいた。そこで彼女はカラスに「ブナ・サイラ、ボンジュール、グーテン・ターク、ブオン・ジョルノ」と声をかけた。それはレト・ロマン語とフランス語とドイツ語とイタリア語で「こんにちは」という意味である。するとカラスが下りて来て、イタリア語で「ブオン・ジョルノ」と答えた。するとマトゥサラは一瞬、立ち去ろうとした。なぜなら彼女はイタリア語の前置詞をよく間違えるからである。しかし彼女は勇気を出して「ドーヴェ・エ・ベルンハルト?」と尋ねた。それはイタリア語で「ベルンハルトさんはどこにいますか」という意味である。するとカラスは「サラ・イン・ラ・テルツァ・モンター二ャ(三番目の山にいます)」と答えた。そこでマトゥサラはカラスに「グラッツィエ(ありがとう)」と言って、三番目の山に行った。そして二人は、二つに分かれた道に来た。するとそこに馬がいた。マトゥサラはその馬に「ブオン・ジョルノ、ブナ・サイラ、ボンジュール、グーテン・ターク」と声をかけた。すると馬はドイツ語で「ハックション! グーテン・ターク。ゴホン!」と答えた。マトゥサラは「ヴォー・イスト・ベルンハルト?」と言った。ドイツ語で「ベルンハルトはどこにいますか」という意味である。馬は「ゴホン! ゲーエン。ハックション! ゲーエン・ズィー。ゴホン! ナハ・レヒト。ハックション!」と言った。マトゥサラは「ゲーエン・ズィー・ナハ・レヒト?」と言った。ドイツ語で「右に行け」という意味である。すると馬は「ヤー(Yes)」と言った。マトゥサラは馬の額に手を当てて「ズィー・ハーベン・ヤー・フィーバー。ゲーエン・ズィー・ナハ・クランケンハウス(熱があるわ。病院に行きなさい)」と言った。そして二人は右に曲がった。しばらくして二人は村の前に来た。すると、筋骨逞しい女性がそこにいた。マトゥサラはその女性に「グーテン・ターク、ブオン・ジョルノ、ブナ・サイラ、ボンジュール」と言った。すると振り向いた彼女には髭があり、バリトンの声で「ボンジュール」と答えた。それはフランス語である。マトゥサラは「ウ・エ・ベルンハルト?(ベルンハルトさんはどこにいますか)」と言った。すると彼女は「イル・アビト・トゥー・プレ。アロン(彼は近くに住んでいるわ。行きましょう)」と言った。そして三人は歩き始めた。彼女はマトゥサラに「テュ・ア・アン・ナクサン・エスパニョル。ポルクワ・ア・テュ・プリーズ・フランセー?(あなたにはスペイン語訛りがあるわね。どうしてフランス語を習ったの)」と言った。マトゥサラは「レ・プルミエール・ウーヴル・コンプレート・デ・リテラテュール・クラシーク・ソン・ピューブリエ・アン・フランス(世界一の古典文学全集がフランスで出版されているからよ)」と言った。そして三人はベルンハルトの家の前に来た。聖ベルンハルトは人間には似ておらず、セント・バーナードという犬に似ていた。バトラーチェは思わず「でかい犬が服を着てるぞ」と言った。マトゥサラはバトラーチェの頭を叩いた。聖ベルンハルトは、ナメクジスライム を飼っていた。それは犬の一種であり、骨が無くて、アメーバのように分裂して増えるという、珍種の犬であった。バトラーチェはカタツムリを見つけて食べようとした。すると突然ナメクジスライムがそのカタツムリに飛びついて食べた。マトゥサラと聖ベルンハルトは書斎にいた。聖ベルンハルトはマトゥサラに紙を見せて「これはアラビア語でしょうか」と言った。マトゥサラは「アラビア文字に似ているけど、アラビア語じゃないわ」と言った。マトゥサラは学生時代、イスラエルに住んでいた。アラビア語と英語とヘブライ語イスラエル公用語であった。しばらくしてマトゥサラは「これはラテン語よ。ずいぶん癖のある字だわ。これは続福音書の抜粋よ」と言った。それはイエスの昇天後の現れをまとめたものであり、ダマスコのパウロや、クォ・ワディスや、聖クリストフォルスと幼児、その他の物語が書かれている。その内容は、

 福音史家聖ルカが、〜その父はセラであり、その父はアルパクサデであり〜、と書いた時、イエス・キリストが現れて言われた。

 セムはアルパクサデを産んで、アルパクサデはカイナンを産んで、カイナンはセラを産んだ。カイナンは洪水前の碑文を発見して翻訳した。それは禁断の知恵であった。セムはそれを知ると言った。

 禁断の知恵を知ってはならない。われわれの先祖は、その罪の故に滅ぼされたのだ。もはやお前は私の孫ではない。

 そしてカイナンの名は消された。しかしイエスは言われた。

 カイナンを許しなさい。彼は真実を求めて、神に近づこうとしたが故に、過ちを犯したのだ。

 そしてルカはイエス系図にカイナンの名を加えた。

 マトゥサラとバトラーチェは外に出た。その時バトラーチェが「ぼくドイツ語出来るよ」と言って、一人の人に「バウムクーヘン」と言った。するとその人は、何やら言って、指を指した。バトラーチェがその方向を見ると、エプロンを着けた男がパン屋の前に立っていた。バトラーチェは彼に「バウムクーヘン」と言った。するとそのエプロン男は何やら言って、店に入って行くと、トレイを持って出て来た。そのトレイの上には、沢山のバウムクーヘンが乗っていた。そして彼はまた何やら言った。その時マトゥサラが来て、そのエプロン男と話し始めた。そして彼女はゴキブリの形に焼いたパンを買うと、バトラーチェに見せた。バトラーチェが「どうせただのパンだろ」と言うと、マトゥサラは「そうよ」と言った。