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 十二月二十六日、法王が死んだ。そしてアポスタテスが後を継いだ。マトゥサラは新聞を読んだ。新聞には、このような記事が載っていた。クラーク・ケントが自殺未遂。彼は製粉機に飛び込むが、製粉機は壊れてしまい、本人は全く怪我は無し。毎夜、怪盗が現れる。怪盗は教科書と論文を盗み、貧しい学者達にそれを与える。目撃者の証言によると、回答は黒ずくめの男である。マトゥサラはその記事を読むと「あの男も黒ずくめだったわ」と呟くと、新聞紙を抱きしめて「怪盗はあの男かも知れないわ」と言った。

 その夜、空には月が出ていなかった。マトゥサラは家を出た。彼女は「あの男は必ず射止めるわ」と呟くと、膝を地に着けて、両手を空に挙げて「おおロミオ。あなたはなぜロミオなの」と言った。その後ろでバトラーチェが溜息混じりに「あいつ完全にイカれてる」と言った。その時マトゥサラは、黒ずくめの男が空を飛んでいるのを見つけて、跳び上がって、後を追った。月が無い夜空の下、三つの人影が、屋根から屋根へと跳んでいた。先頭の男はタキシードと、目の周りを覆う仮面を着けていて、長いウエーブのかかった髪をリボンで結んでいた。彼はロープを投げてアンテナに巻きつけると、ロープを掴んだまま跳んだ。彼は弧を描いて降下すると、塔の上に着地した。その時マトゥサラが彼の上に跳び降りようとした。その時、黒服の男はねじを一本抜いてから、横に跳びのいた。そしてマトゥサラがそこに着地した。すると同時にその塔が崩れたが、マトゥサラは近くの家の屋根に跳び降りた。そしてバトラーチェがマトゥサラの横に着地した。黒服の男は住宅の屋上に飛び降りたが、マトゥサラが彼の前に着地した。黒服の男はナイフを出して、マトゥサラに襲いかかった。するとマトゥサラは手すりの上に跳び上がって、その手すりの上を走り始めた。黒服の男は彼女を追おうとした。その時、沢山の銃弾が飛んで来た。そこで黒服の男は跳び退いて、隣の家の屋根に跳ぼうとした。その時マトゥサラはバトラーチェを投げ下ろしてから、黒服の男に抱きついた。そして二人は、トランポリンに変身したバトラーチェの上に落ちた。そして鄢服の男は、トランポリンから跳び下りて逃げようとした。するとそこに来ていたトバルが、黒服の男にライフルを突き付けた。黒服の男は動きを止めて、ナイフを落とした。彼はマスクを取って、アンドルーと名乗った。彼は左目の周りに、竜の羽根、あるいはガラスの破片に似た刺青をしていた。マトゥサラとバトラーチェとトバルは、アンドルーの話から、革命家達がバカヤ牢を襲撃しようと計画している事を知った。するとマトゥサラは「バカヤ牢には、エノス書に反対する学説を唱えた学者たちが、大勢入れられているのよ。彼らは無神論を唱えているけど、真実は何かを追及しているわ」と言った。するとトバルは「お前は尼だから、無神論者はお前にとっては敵だろう。平民は知恵を身に着けつつあるので、教会の支配は長くは続かないだろう」と言った。するとマトゥサラは「神の奇跡は化学では解明出来ないわ。だけど知られていない法則があるはずよ。私は彼らが謎を解く事を期待しているわ」と言った。そして「今セツの子とカインの子の交際は禁じられているわ。だけどどちらもアダムの子よ」とも言った。