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 一月四日、マトゥサラは、教会で紙が発見されたので、呼ばれた。マトゥサラはそれを見ると「これは失われた福音書じゃないかしら。コプト語ね」と言った。そして翻訳し始めた。帰り道で、彼女は赤い雲の様な、見慣れない天体を発見した。それは彗星 であった。彗星の頭は、ふたご座1番星から、一度一分五十六秒離れた場所にあり、その方角は、南から東に四十度ほどずれていた。彗星の尾は、ふたご座エータ星とミュー星と座デルタ星を通って、ふたご座63番星を二度超えた所まで伸びて、そこで折れ曲がって、ふたご座1番星まで伸びていた。マトゥサラが時計を見ると、午後十一時半であった。それは世界時二十二時三十分でもあった。しかし彼女はその天体の正体がわからなかった。その時月は、ふたご座エプシロン星から北に四十分ほど離れた場所にあり、月齢は十点九日であった。

 翌日、一月五日、マトゥサラは天文台に行った。そこで彼女は天文雑誌を読んだ。その雑誌には、日系アメリカ人の、赤井レッドが、十二月五日に彗星を発見したと書いてあった。その彗星は、他のどの彗星よりも大きく、他のどの天体よりも赤く、その軌道はメティデスの軌道と交差している。それ故に、メティデスの破片ではないかとも考えられている。彗星は、二月二日の午後十時二十三分に、月の裏側を通る。二月三日の午前五時四十七分に、地球に最接近しす。そしてそれは非常に明るくなるだろう。彗星の位置予報は、雑誌の二ページにわたって印刷されていた。これが左のページ と右のページ である。

 それからマトゥサラは家に戻った。そしてプロメテウスと話した事を思い出して、彗星はメティデスの破片なのかと考えた。初めは十個の惑星 があった。それらは水星、金星、原始地球、火星、メティデス、木星土星天王星海王星、そしてブルマであった。その頃、人は金星と原始地球と火星と、そして土星の衛星パラダイスに住む事が出来た。パラダイスは太陽から遠かったが、地熱が高く、土壌が豊かであったので、人は働かなくても生きる事が出来た。その時戦争が起こった。そしてパラダイスとブルマは爆発した。天王星は自転軸が横倒しになり、海王星の衛星トリトネレイドは引き裂かれてネレイドとトリトンになった。そして土星の衛星ミマスに隕石が当たって、デス・スターのようになった。天王星の衛星ミランダは、一度砕けてから、また元通りに集まって一つの星に戻った。その時アレス(火星)はアレツ(地球)に似ていたが、Tを持たない分小さかった。その時沢山の隕石が雨のように火星の上に降り注いだので、火星の海は干上がり、大気は剥ぎ取られた。以来、火星には生物 は住めなくなっている。そして金星も、自転軸が引っくり返って、時点の速度も遅くなり、また惑星表面を熱くて厚い雲が覆ったので、灼熱地獄となった。そして原始地球は引き裂かれて、地球と月になった。それ以来、人は地球にしか住めなくなっている。その戦争は天地創造と名付けられたが、実は最悪の破壊であった。エノス書には、僧侶が権威をもって民を支配するために、多くの偽りが巧妙に書かれている。そして彼らは知識を独り占めにしていた。そしてマトゥサラも、僧侶階級の血を引いていた。

 そこにバトラーチェが来た。マトゥサラは「ダンテは地球の裏側まで、地底を通って、四十五時間で行っているから、ダンテは時速二百八十三点五キロで歩いたのかしら」と言った。するとバトラーチェは「アホか、急降下するワシじゃないだろ」と言った。