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 そして、地上は火の海であったにも関わらず、鳥は舞い降りて来た。地上に降りた時は、腕の代わりに翼を持つ人間のように見えたが、火が更に勢いを増したので、その鳥にも人間にも見える姿は見えなくなった。その時、炎の中から「私は刺客を送ったが、それは良くなかった。私自身がこの手でやらねば」と言う声が聞こえた。二人は声が聞こえた方向を見た。すると、火の中に人影が見えた。そしてその人影は火の中から歩いて来て、二人の前に姿を現した。その時その人物は、翼ではなく腕を持っていて、完全に人間と同じ姿であった。トバルは「やつが神の子か!?」と言った。そしてマトゥサラは下界訛りの言葉で「あなたは神だけど、私は人間だわ」と言った。その人物は「私は神だ。名はアベルという。人間の堕落はもはや許し難い。マトゥサラよ、月を見るがいい」と言って、空を指差した。マトゥサラは空を見たが、月は見当たらなかった。そして、アベルが空を指差しているのに気がついて、その方向を見たら、そこに月があった。それは満月であり、ポリマの北に、一度離れた場所にあった。マトゥサラは、月と腕時計を見比べて「東経九十五度の地点が南に三十度ずれて、西経八十五度の地点が北に三十度ずれているわ。今、アトランティス大陸は、南極圏にすっぽり入っているわ」と言った。アベルは「その通りだ。私はこれから地上に洪水を起こすが、君は天界に連れて行く。君の父親は元気だ」と言った。マトゥサラは「洪水は起こさせないわ。私はこの地上を信じていたい」と言った。するとアベルは息を吹いた。すると、気流がマトゥサラに襲いかかった。彼女は燭台の残骸の近くまで吹き飛ばされた。そこで、『温泉ガエルのバトラーチェ ここに眠る』と書かれた墓を見た。マトゥサラはへなへなと座り込むと、思わず吹き出した。そしてその墓石を叩いた。すると墓石はバトラーチェに戻って、起き上がると「何が起こったんだよ。死ぬかと思った」と言った。マトゥサラは一冊の、模型と玩具の雑誌を拾った。そして一つのページ を開くと、もう一つのページ も開いた。そして「見てよ。玩具のディフダよ。何かかっこ悪いわ」と言って、バトラーチェに見せた。バトラーチェは「確かに。ディフダはトランスフォームをする時、パーツの一つ一つもデフォームしなくちゃいけないんだ」と言った。マトゥサラは「敵がヘルメスじゃない事に感謝するわ。あの人は下界の文化に詳しいもの。だけどアベルは低俗なサブカルチャーに興味は無いわ。ディフダに変身して」と言った。するとバトラーチェはディフダに変身して、マトゥサラはそれに乗り込んだ。アベルはそこに来て、ディフダを見た。そして「あれはタロスじゃないのか」と言った。その時ディフダはディフダ・ドダナブに変形して上昇すると、空中でショルグフに変形した。アベルは「あれは天界の技術では作れない。ヘファイストスに献上しなくては」と叫んだ。ショルグフは飛び回り始めた。アベルは両腕を鳥の羽根に変化させて、飛び立った。マトゥサラは「あの人は今嵐を起こせないわ。そして飛んでる時は両手を使えないわ」と言った。そしてシビュラからもらった書物を開いて、アベルをどうやって倒すべきかを調べた。しかし書物には、アベルを倒す事は出来ないと書かれていた。そこでマトゥサラは、notという文字を塗りつぶした。すると、そのインキは剥がれ落ちた。マトゥサラはそのページを破った。するとすぐに同じページが生えて来て再生した。マトゥサラは「未来はどうやったら分かるの。自分の力で切り開くわ」と言った。そして「振り向いて、あの人を撃って」と言った。するとショルグフは反転した。その時、アベルの翼の羽毛が、鱗に変化して射出された。ショルグフはその鱗を避けると、塔の後ろを通った。アベルはショルグフを追って、再び鱗を射出した。するとショルグフはダメージを受けて墜落し始めた。マトゥサラは、ショルグフから跳び下りた。アベルはマトゥサラを追って、一旦命を取ろうとした。しかしマトゥサラはアベルを蹴って、建物の上に着地した。その時ショルグフがアベルに体当たりをして、そのまま建物に突っ込んだ。その建物は崩れた。ショルグフは建物の残骸から飛び出した。建物は完全に瓦礫になった。ショルグフは再び飛び立った。アベルは瓦礫の山の中から立ち上がると、ダメージが回復しているショルグフを見た。マトゥサラは建物から跳んで、ショルグフに乗り込んだ。アベルは「驚いた。あの飛行機は自動修復機能を持っている」と言った。実は、攻撃を受けた時に、バトラーチェは通常のショルグフから、壊れたショルグフに変身してたのだった。アベルは立ち上がって両腕を翼に変化させた。ショルグフはショルグフ・ドゥアルゴルに変形して、降下し始めた。そして着地して、止まるとディフダに変形した。アベルがそこに来て、羽毛を鱗に変化させて、ビルの上のガスタンクを撃った。するとガスタンクが爆発して、破片がディフダの顔に向かって飛んで来た。その時ディフダはショルグフに変形して、地面にどうっとへばりつくと、飛び立ってアベルに体当たりをして、逃げて行った。アベルはビルの屋上に落ちると、立ち上がってアベルを追おうとした。その時一本の薔薇が飛んで来て、アベルの足元に刺さった。アベルがその薔薇の飛んで来た方向を見ると、トバルが貯水タンクの上に立っていた。トバルはバズーカ砲でアベルを撃った。するとバズーカ砲から、沢山の花が撃ち出された。アベルはその花を避けると「信じられない事をする奴だ。何でも入れて撃ち出せるのか」と言った。バズーカ砲から花瓶が飛び出した。そして沢山の卵が撃ち出された。アベルはそれらも避けた。トバルはまたバズーカ砲を撃った。すると、沢山のイワトビペンギンが撃ち出された。アベルは跳び上がると、回し蹴りでペンギン達をまとめて蹴った。するとペンギン達は飛ばされて行って、頭の毛が、周囲のビルや家に刺さった。トバルは再び撃った。すると大型戦車が撃ち出された。アベルは「どうやってそんなに大きい物を入れたのだ」と叫ぶと、戦車も蹴って、バラバラに砕いた。アベルは「人が神に勝てない事を知れ」と言って、腕を胸の前で組んでから広げた。すると彼の体から、衝撃波が出て、周囲にある建物の、アベルに面した部分が崩れ、トバルは吹き飛ばされた。アベルは周りを見回して、ショルグフを見つけた。ショルグフはディフダに変形した。アベルは両腕を鳥の羽根に変化させて、ディフダのところに飛んで来た。ディフダはアベルを捕まえようとした。アベルはディフダの手から逃れて着地した。そして、ミサイルランチャーを拾って撃った。ミサイルはディフダの右肩に当たって爆発した。ディフダは右腕が無くなっていたが、なぜか破片は散らばっていなかった。アベルはわが目を疑った。マトゥサラは操縦席で「何考えてるのよ!」と叫んだ。なぜならディフダは中が がらんどうで、大きな輪ゴムだけがあったからである。アベルは「あの輪ゴムが動力源なのか。何という燃費の良さだ」と叫んだ。そして沢山の電線が、ディフダの壊れた部分から生えて来て、絡まって右腕の形になると、装甲板が形成されて、右腕は完全に再生した。アベルは「古代文明の技術は素晴らしい。ヘファイストスにあのロボットを献上すれば、大喜びだろう」と言った。マトゥサラは「やり過ぎよ」と叫んだ。ディフダはショルグフに変形すると、滅茶苦茶に飛び回った後、消えた。するとアベルは「古代文明にワープの技術があったというのは本当なのか」と叫んだ。そして、ショルグフが消えた場所に、マトゥサラとバトラーチェがいるのを見つけた。アベルは「古代の技術を使いこなせなかったな」と言った。マトゥサラは、飛び回り過ぎて目を回したバトラーチェを捕まえると、彼を起こして塔の上に着地すると、屋根から屋根へと跳び始めた。アベルはマトゥサラを追い始めが、バトラーチェがどこにいるかを把握出来なかった。マトゥサラは、屋根から屋根へと走りながら、後ろに爆弾を投げた。すると家が一軒、吹き飛んだ。そして三本の槍が、壊れた家から飛んで来て落ちた。マトゥサラは逃げ続けた。アベルは一本の槍を拾って投げた。マトゥサラは振り返って、爆弾を投げようとしたが、急いで横に飛び退いた。そこに槍が飛んで来た。その時爆弾は、洋服屋に落ちて爆発した。そして、沢山のブラジャーが中を舞った。アベルはもう一本の槍を拾って投げた。マトゥサラは爆煙の中に飛び込んで、槍を避けた。そこに三本目の槍が飛んで来た。マトゥサラはそれも避けた。アベルは四本目の槍を拾って投げた。マトゥサラは振り返って、その槍も避けようとしたが、煙突に片足を引っ掛けて、避けそこなった。槍は彼女の胸を貫き、彼女は路地に落ちた。アベルはその場所に来てから、路地に跳び下りた。そして着地してから見回すと、マトゥサラは、全く動かずに倒れていた。アベルは、マトゥサラが死ねば洪水が地を覆うはずなので、まだ死んでいないと思った。槍は急所を外れていので、このまま天界に連れて行って、アスクレピオスに見せればいいだろう。そしてマトゥサラの方に歩き始めた。しかし、彼女の近くに、長い金槌が落ちているのに気がついて、立ち止まった。その時、マトゥサラはフードを着けていた。普段はフードを着けていなかったにも関わらず、その時だけ着けていた。アベルはマトゥサラが死んだふりをしているかも知れないと思った。もし、死んだふりをしているなら、長い金槌で叩こうとするであろうと考えた。そして、一本の街灯を引き抜いた。それは金槌の倍以上の長さであった。そして「私は血を見るのは嫌いだが、とどめを刺さなくては。頭を叩き潰せば、傷口は一つだけだが、確実に死ぬ」と言った。そしてマトゥサラの横に立つと、彼女の頭を睨みつけながら、頭の横の地面を狙って街灯を振り下ろした。その時、街灯の先端が、弾丸に吹き飛ばされた。アベルがその方向を振り向くと、沢山の弾丸が飛んで来た。トバルがマシンガンを撃っていた。アベルは銃弾を浴びながら、トバルの所に走って来ると、胸ぐらを掴んで「私は細くて弱いが、貴方を殴り殺すくらいなら出来る」と言って、彼を殴ろうとした。その時、何かがアベルめがけて飛んで来た。アベルはそれを右手で防ごうとしたが、その物体はその右手を砕いて、そのまま頭に当たった。それはマトゥサラが掴んでいる金槌であった。アベルは飛ばされて、歩道橋の上に落ちた。その時「トバルは「何を着てるんだ!」と叫んだ。マトゥサラは服の上にブラジャーを着けていて、そのブラジャーから槍が生えていた。マトゥサラがそのブラジャーを外して落とした。槍はそのブラジャーから生えていて、地面に落ちるとバトラーチェに戻った。アベルは上半身を起こした。その時、彼の頭の右半分が砕けていた。砕かれた右手は、傷口が閉じて血が止まり、元通りに再生した。彼は立ち上がろうとしたが、左半身が麻痺していたので転んだ。アベルは自分の頭から流れている血に気づいて、「なぜ人の子が私を傷つけられるのだ!」と叫んだ。マトゥサラは「人は神を傷つける事は出来ない。だけど私はその秘密を知ってわ」と言った。アベルは驚いて「プロメテウスなのか! あいつは人間に余計な事ばかり教えている!」と言った。その時トラックが、歩道橋の下を通り過ぎた。するとアベルは左腕を振り上げてから、地面を打った。歩道橋が壊れて、アベルはトラックの荷台に落ちて、運ばれて行った。そそれから、マトゥサラとバトラーチェもそのトラックの荷台に跳び下りた。そしてバトラーチェが、小型戦車に変身して、アベルを撃った。するとアベルは自分から、その弾丸の前に飛び込んで来て、弾丸と共に吹き飛ばされて行って、家の向こうに落ちた。マトゥサラと、元に戻ったバトラーチェはトラックから跳び下りて、アベルを追った。アベルが通った道には、血が残っていた。二人はその血を辿って、後を追った。しかし血と血の間の間隔が、次第に広がって行き、やがて血が途切れて、追跡が出来なくなった。その時沢山のジュースの缶 が飛んで来て、ジュースを噴き出した。バトラーチェがライフルに変身して、マトゥサラがそれを取って、缶を撃ち落とした。それからまた沢山の感が飛んで来た。その時、アベルに命の息を吹き込まれたジュース販売機が滑って来て、缶を撃ち出した。それらの缶は、一斉にマトゥサラめがけてジュースを噴き出した。その時、マトゥサラとジュース販売機の間に、一瞬、ジュースの缶が無い空間が出来た。そこでマトゥサラは一気にジュース販売機のそばまで走って行って、ジュース販売機を撃った。すると、缶は皆止まって落ちた。そしてジュース販売機も止まった。その時、アベルは燭台の残骸の前に来ていた。彼は「この燭台は彗星の核であり、その彗星はメティデスの核であった。真の教皇庁が、この地下にある。そこには三叉の鉾があるはずだ」と言った。その時彼の傷は、すでに回復していた。そして「開け」と命じた。すると地面がひとりでに崩れて、地下の空間が姿を現した。そこには、アケロンと呼ばれるプールがあった。アベルは歩き始めた。そこには地面が無かったが、彼はそのまま空中を歩き続けた。そしてアケロンの中央地点の上に来ると、水面に穴が開いた。アベルはその穴の中に降下し始めた。やがてアベルは水の下の空間に来た。そこには空気があって、その下にまた水面があった。その水面はステュクスと呼ばれていた。アベルが降りて来ると、ステュクスも穴が開いた。

 その頃、トバルは真の教皇庁に来て、巨人の封印を解いていた。彼は思わず「巨人はテレビの漫画のロボットみたいだ」と言った。マトゥサラは「この巨人はキュクロプスだわ。キュクロプスはギガスの改良型よ。ギガスは基地に繋がってる電線を、尻尾みたいに引きずっていて、キュクロプスは車輪付き発電機に繋がってる電線を引きずっていたのよ。そしてタロスは発電機を内装しているわ」と言った。

 アベルはフレゲトンと呼ばれる、お湯で出来た天井に開いた穴から降下して来た。そしてコキュトスと呼ばれる氷の大地に向かって降下して行った。コキュトスは融けて水になり、二つに分かれてアベルの右と左で壁のようになって立った。アベルは降下をやめると、空中を歩いて前進し始めた。そして嘆きの壁と呼ばれる石の壁が前に現れて、ひとりでに砕けた。その向こうには、浄罪界と呼ばれる空間があり、アベルはそこに進んで行った。その向こうには、エデンの門と呼ばれる、燃える剣で出来た格子があった。アベルが来ると、エデンの門はひとりでに崩れた。すると、その向こうから、レーテと呼ばれる水の壁があった。そのレーテが普通の水に戻って、左右に分かれて流れて行くと、ヘヴンズ・ドアーと呼ばれる黄金の壁があ現れた。その壁が開くと、エリュシオンと呼ばれる空間が現れた。そこでは、巨人が巨大な十字架に架けられて、三叉の鉾で突き刺されていた。アベルはその巨人の前に来ると、今度は上昇し始めた。巨人は完全にミイラ化していた。アベルは巨人を見ながら「ルシファー。十七番目のアダム。生まれると同時に爆発しようとした。その時三叉の鉾で刺されたので、原始地球が地球と月に分かれるだけで済んだが、そうでなかったら、太陽系が吹き飛んでいたであろう。しかしその後も生き続けて、しばしば地震を起こした。何物もこの巨人を殺せなかった。ただ長い時だけが、この巨人を殺した。この三叉の鉾は、洪水を起こす事が出来る」と言った。そして、その三叉の鉾を取ろうとした。すると、その三叉の鉾はぼろぼろと崩れた。アベルは驚いて、掌を見た。すると、鉄の屑のような物が手についていた。アベルは思わず「これはステンレスではないか。誰が紛い物とすり替えたのか」と叫んだ。その時「オリハルコンはステンレスよ。シビュラの粘土板にそう書いてあるわ」と言う声が聞こえた。アベルが見上げると、十字架の上にマトゥサラが立っていた。そして、壁が崩れて、キュクロプスが現れると、斧を振った。その時斧は金槌に変化して、アベルを打ち、それから槍に変わった。アベルの体が光ると、キュクロプスの装甲板のネジが皆ひとりでに回転して外れ、キュクロプスの装甲板が皆落ちた。そしてアベルは息を吹いた。すると、その息がつむじ風になって、キュクロプスの尻尾をねじ切った。そしてキュクロプスは止まった。アベルは「もはや王笏しか無い」と言って、両腕を翼に変化させると、飛んで行った。マトゥサラは、ギガントマキアの伝説を思い出していた。ヘラクレスがゼウスの王笏を投げてテュフォンを倒した時から、王酌は失われていた。その時、月はふたご座にあった。そこまで思い出して、マトゥサラは「王笏はギガントマキア以来、月面に突き刺さっているわ」と言った。槍はバトラーチェに戻っていた。そしてマトゥサラはバトラーチェに「私を月まで連れてって」と言った。