79

 そしてステローペはアーティミドアに「あんた栄養つけなきゃ」と言って、レストランに連れて行って、ナツメヤシのサラダとシシカバブを注文した。そしてまたアーティミドアに「ヒツジの肉だよ。怖がらないで食べろよ」と言った。アーティミドアは「オリオンどうしてるかしら」と言った。ステローペは「あいつ昨日、カモ狩りに行ったよ。多分何日間か帰って来ないと思うな」と言った。アーティミドアは「普通のにんにくは匂いが強くて苦手だけど、エジプトのにんにくは美味しいわ!」と、嬉しそうに言った。ステローペはカバンから、袋のような物を取り出して「これ、ダック・ヴォイスだよ。ヘリウムガスで出来てるんだ。これを吸ったら声が綺麗になるぞ」と言った。アーティミドアは、それを吸って、歌ってみた。すると奇妙な声が出た。アーティミドアは、驚いて黙ってしまった。そしてステローペが笑った。アーティミドアは「私の声、増六度と長七度の間くらい高くなったわ」と言った。するとステローペは「それ、中央七度なのか? 増六度は短七度ともいうから」と言った。中央七度という用語は、音楽には無いのだが。アーティミドアは「1オクターヴは半音が12個ね。私の声は、半音10個半くらい高くなってるわ。ドがラのシャープとシの間になったって事ね」と言った。そしてダック・ヴォイスを吸ってから、半分笑いながら「さて、と・・・。ぼくは冷凍カチンコチンだし、君はもう死んでていないっていうし。・・・それにきみを愛してるっていう」と言った。ステローペもダック・ヴォイスを吸って、笑いながら「それは大変ね。・・・・・・ぼくがあの車なんかに乗ったばっかりに、君を失ってしまった。すまない。前にぼくに言ったことを覚えてる? 人はいつだって、この瞬間からさえ、変わることができるんだよって」と言った。ステローペは笑いながら、うっかり二人分の台詞を続けて言ってしまっていた。アーティミドアは、またそれを吸ってから、笑いながら「またあなたを見つけるわ」と言った。ステローペはまたそれを吸ってから、笑いながら「今度きみと出会う時は・・・、生まれ変わって、ぼくら二人、猫になって」と言った。そしてアーティミドアはまたそれを吸ってから、次の台詞を言おうとして、そのままこらえきれずに笑い出した。するとステローペも笑って「おかしい! 似合わないね!」と言った。