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 八月二十五日、マトゥサラとバトラーチェはバビロニアに来た。マトゥサラは地図でホテルを探して「ホテル・バベルは遠いわ。空を飛べたなら」と言った。そして空に向かって「ロプロース!」と叫んだ。するとバトラーチェがぎょっとして彼女を見た。マトゥサラが足でバトラーチェを打つと、バトラーチェは大きな鳥に変身して彼女を背に乗せて飛び立った。やがて、その巨大な鳥はホテル・バベルの前に降り立った。そして鳥はバトラーチェに戻った。マトゥサラとバトラーチェはホテル・バベルに入った。ホテル はまだ未完成で、建設中であり、ニムロデがそのホテルのオーナーであった。その時、ホテルは、七千二百三十六万五千七百八階まで出来上がっていた。これが三つの地点の重力 である。地上は、1Gであり、天頂から百八十度、天底から零度傾いていた。九百六十八万七千三百八十八階の重力は最も無重力に近かった。その重力は五十三分の一Gであり、天頂から南へ五十八度、天底から百二十二度南に傾いていた。そして七千二百三十六万五千七百八階の重力は1Gであり、天頂から南へ三十二度、天底から南へ百四十八度南に傾いていた。マトゥサラはバトラーチェに「このホテルは世界一高い建物よ。ネパールは世界一高い国なの。それはサンスクリット語で麓と言う意味で、アラム語で落ちるという意味よ。アラム語バビロニア公用語なの」と言った。しかしネパールと言う単語は落ちるというアラム語ではなく、正確にはネファル である。そして彼女はポスター を見た。それはホテルの完成予想図であった。それは、ビルが月に当たって壊れる絵であった。そして二人はホテル・バベルに入った。二人はエレベーターの中で、空を向いた椅子だかベッドだか分からない物に、座るというか、横たわり、シートベルトを締めた。それからエレベーターが上昇し始めた。その時轟音と共に、二人の体重が何倍にも増えた。そして最上階に着くと、二人はエレベーターを降りた。マトゥサラはベランダの近くに来て、空を見上げた。すると、視直径二度十二分五秒ほどの青い天体 が見えた。それは地球であった。そして月を見て考えた。エノス書によると、月の直径はおよそ四百五十六エウピプトン九点二二三七七エキュンセーであり、軌道半径は九ヘミガイオン七百九十四エウピプトン1点五三一九二エピタキュンセーである。しかし彼女は、実際の月の直径はおよそ六千六十六エウピプトン十一点二〇四〇七エピタキュンセー程であり、軌道半径はおよそ六十ヘミガイオン三千五エウピプトン七点二エピタキュンセー程じゃないだろうかと考えた。そして彼女は空を見た。そこには見慣れない星々が見えていた。
 「神は北斗七星、オリオン座、昴の星々と、南の密室を創られた。・・・」
 ふと一つの句が口をついて出た。それはヨブ記の第九章第九節であった。彼女はまた言った。
 「それらは星々と南の密室って事かしら。クィー・ファキト・アルクトゥールム・エト・オーリーオーナ・エト・ヒュアデース・エト・インテリオーラ・アウストリー。インテリオーラは『内側の』という意味の、中性複数対格形容詞。そしてアウストリーは『南』という意味の、男性単数属格名詞ね。中性複数対格名詞が『エト』と『インテリオーラ』の間に入るはずよね。誰が間違えたのかしら。聖ヒエロニムス? それとも植字工なの? どの星が四つの基本道徳の星で、どの星が三つの対神徳の星かしら。」
 それらはダンテの神曲の、煉獄編第一歌二十二節に出る星である。北天の星座達は、下方で逆様に見えていた。そこで彼女はガードレールの上に跳び乗ってから、逆様にぶら下がった 。すると、北天の星達は見慣れた向きに見えた。彼女はふと考えた。もし、このまま落ちたら、父親に会えるのではないかと。その時バトラーチェが「誰か来たぞ!」と言った。するとマトゥサラは上体を起こして床の方に跳び降りた。