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 十月二十八日、マトゥサラの家にヘラクレスが来た。なぜならヘスペリアの園に近いからである。マトゥサラは彼を案内した。彼らは森に来た。その時蛇が木の枝からぶら下がって来た。ヘラクレスは蛇を掴んで引っ張ってから、手を離した。すると蛇は反動で跳ね上がってから、勢いよく枝にまきついた。別の蛇が木の枝からぶら下がって来ると、マトゥサラはその蛇を枝にくくりつけた。その時バトラーチェは家に逃げ帰っていた。マトゥサラとヘラクレスは更に進んだ。その時蛇 が、ばねの様な格好で跳ねて、通り過ぎた。マトゥサラは「あれはバネヘビよ。この園にはまだ沢山の蛇がいるわ」と言った。それから、また一匹の蛇が来て、池に入った。そして、鯨の様な形の物体が、池から上がって来た。それは池よりもはるかに大きかった。マトゥサラは「あの蛇は鯨を食べた のよ。池には沢山の鯨が住んでいるの」と言った。するとヘラクレスは「どうやってこんな小さい池に鯨が入ってるんだ」と叫んだ。それから二人は、傾いている豪邸の前に来た。一本の柱が折れていて、アトラスが天井を支えていた。二人はアトラスに駆け寄って「どうして逃げないの」と言った。するとアトラスは「娘達が中にいるんだ」と言った。そこでヘラクレスはアトラスに代わって天井を支え、アトラスは家の中に入って行った。そして三十人の娘達と一緒に出て来た。

 その後、アトラスはヘラクレスとマトゥサラに、黄金の林檎を贈った。それらは黄色い林檎の様であった。マトゥサラはそれをかじると「梨みたいな味だわ」と言って、手鏡を見た。そしてヘラクレスに「私は綺麗になったかしら」と言った。ヘラクレスは「変ってないみたいだ」と言った。アトラスは「実は、黄金の林檎というのは、東洋梨なんだ。林檎のような形をしている」と言った。ヘラクレスは「娘が三十人もいて華やかだな」と言った。するとアトラスは「私には二十九人の娘と一人の息子がいるんだ。しかしその息子は性同一性障害で、自分は女だと言って、女の服を着ているんだ」と言った。その時一人の、他のどの娘よりも可愛い少女が、ヘラクレスに近づいて来てキスをしようとした。マトゥサラは思わず「その子男の子だよ」と叫んだ。するとヘラクレスは驚いて、逃げて行った。そしてその少女もヘラクレスを追って行った。マトゥサラはそれを見て大笑いをした。その時一人の若い女性が来た。アトラスは「長女のアルキュオネだ」と言った。アルキュオネは「あの子はヒュアスよ。男なのに、社会でも女で通しているのよ。あなたよく分かるわね。あなたヒュアスとどこか似てないかしら」と言って、不思議そうにマトゥサラの胸を触った。