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 八月十六日、マトゥサラとバトラーチェとポセイドンはホテルを出た。そして三人はたまたま電気屋の前を通った。その時テレビでニュースが放送されていた。それは遠くの海の嵐のニュースであった。するとポセイドンは「俺の留守中に嵐が起こりやがった。行って鎮めなくては」と言うと、電柱をへし折って投げると、それに跳び乗り、飛んでいる電柱の上に立って、飛び去った。マトゥサラはレツィーナを買った。それは松ヤニの匂いがした。彼女は口に含むなり「何よこれー!」と叫んで、花壇に咲いていたアジサイにかけた。するとアジサイはすみれ色からピンク色になって、へなへなとしおれた。

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 そしてマトゥサラとバトラーチェはペット店に入った。プレーリードッグがそこにいたので、マトゥサラは撫でようとした。その時プレーリードックが、鋭い爪のある手で、指を掴もうとしたので、彼女は慌てて手を引っ込めた。そのプレーリードッグはとても人懐っこくて、何でも掴んで囓るのが好きであった。それからマトゥサラは、ガラスケースの中の犬の前に、指を出した。するとその犬は、ガラス越しに一生懸命匂いを嗅いでいた。マトゥサラはバトラーチェに「犬ってガラス越しに匂いが分かるのかしら」と言った。バトラーチェは「知らないよ。犬に聞けよ」と言った。そしてマトゥサラは駝鳥 を撫でようとしたが、首を傾けるので撫でられなかった。そしてアヒルがそこにいた。アヒルの嘴の力は強かった。その時「おはよう」という声が聞こえた。それで二人は回りを見回したが、誰もいなかった。それからまた「おはよう」という声が聞こえた。するとマトゥサラは「誰!? どこで喋ってるの!? 透明人間ですか!?」と言った。その時誰かがマトゥサラの肩に手を置いて「君、マトゥサラじゃないのか」と言った。そしてマトゥサラが振り向くと、一人の男がいた。彼はオウムの入っている鳥かごを指差した。オウムが「おはよう」と言った。マトゥサラは、鳥が喋ったので驚いて「この鳥は普通の鳥にしか見えないわ。どうして言葉を話せるの」と言った。その男は「この鳥は、オウムといって、喋るんだ。俺はポセイドンだ。君の父さんは元気だよ。父さんはよく、君はアルテミスみたいに動物が好きだと言っている。あいつはよく小動物を捕まえて来る。俺も動物は好きだ」と言った。その時足元で、猫の鳴き声が聞こえた。そして彼等が下を見ると、一匹の黒猫がいた。黒猫は「ハロー、アロハ、ボンジュール。お元気ですか。私は元気だよーん」と言った。そしてその猫の目と口と鼻が、顔面の上を漂い 始めた。その時マトゥサラは「バトラーチェ! 何考えてるの!」と言って、バンドエイドを二枚、福笑い猫の顔に貼り付けた。するとその猫はバトラーチェに戻ってバンドエイドをはがすと「何するんだよ」と叫んだ。そして二人はどちらともなく笑い出した。その時マトゥサラはいきなり玩具のヘビをバトラーチェに投げつけた。同時にバトラーチェもマトゥサラに玩具のムカデを投げつけた。マトゥサラはムカデが一番苦手であり、バトラーチェはヘビが一番苦手であった。そして両者ともに気絶した。それはダブルノックアウトであった。