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 黒い髪の若い男がへリオポリスにいた。彼はマトゥサラより頭一つ分だけ背の高い、美しい若者であった。かれはサングラスをかけて、黒ずくめの服を着ていて、額に十字架型の刺青をしていた。その名はトバルであった。彼はカインの末裔であり、殺し屋であった。カインの子孫達は、遊牧民、吟遊詩人、鍛冶屋、商人、そして旅芸人であった。彼らの多くは彷徨える者であった。トバルはカイロ国際空港で、メッセージボードを見た。それには「Star Nephrite 18時 BCT」と書かれていた。そこでトバルは時計を見ると、喫茶店『スター・ネフライト』に行った。
 トバルがコーヒーを飲んでいると、教会の鐘が時刻を打った。その時喫茶店の壁が崩れて、戦車が入って来た。そしてエジプト王ネコ がその戦車に乗っていた。ネコは「汝がトバルという者かニャア? 余はエジプト王ネコだニャア。野良猫を捕獲してくれぬかニャア? 我が国では猫殺しは禁止されておるので、外国人である汝に依頼するニャア。その猫を捕まえに行った者達は、誰も帰って来ないニャア。猫を侮ってはならぬニャア。身の危険を感じたなら逃げたまえニャア。」と言った。こうして彼は、野良猫の駆除を依頼された。トバルは、エジプト王ネコが話を大げさにしているだろうかと考えた。ネコの話によると、その猫の目はゴールデン・アイであり、ブラウン・クラシック・タビーの模様であった。その猫 の品種は、ウラオモテヤマネコであり、学名はマヤイアルルス・ウラオモテンシス・イマイズミであった。トバルは猫がよく現われる場所に行って隠れると、猫を待ち伏せした。

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 八月十八日、マトゥサラとバトラーチェはカイロに来た。その時、一人の男がバス停にいたが、バスは止らなかった。そしてその男はバスの後を走って行って、ドアに跳びつくと、バスの中に入った。それでマトゥサラとバトラーチェは笑った。そして二人は、暑かったので井戸の前に来た。その時ツタンカーメンが、恨めしやー」と言って、井戸から現われた。そして二人は逃げた。二人は立ち止まり、マトゥサラは「もう! 暑いわ!」と叫んだ。するとバトラーチェは小さい雲に変身して、雪を降らした。すると一匹のゴキブリが、嬉々としてして雪玉 を作った。それからマトゥサラはゴキブリ型のクッキーを見つけて買うと「バトラーチェ! ゴキブリ焼きを見つけたわ!」と言った。するとバトラーチェは元の姿に戻ると、大喜びで走って来てそれを食べた。そして吐き出すと「これゴキブリじゃないやい! クッキーだ! こんなの食えない!」と叫んだ。マトゥサラは「エジプトのゴキブリはスカラベといって、動物の糞で玉を突くって転がすのよ。それでエジプト人は、ゴキブリを太陽の運び手として崇めているのよ。古代エジプト人は、死者の魂は再び帰って来ると信じていて、死者が生き返る事が出来るようにと、ミイラを作っていたのよ」と言った。するとバトラーチェは「魂が帰って来た時、骨だけだったら、骸骨で生き返ってサーカスに出ればいいだろ」と言って、骸骨に変身して踊り始めた。