カエル大戦 0 ゲロイア星編

1

 プレイアデス星団の、アステローぺIとアステローぺIIが分裂する前の、原アステローぺの周りを、惑星ゲロイアが回っていた。ゲロイア星は、海が無くて、星全体が砂漠で覆われていた。人々は、人工の、大きな河を作って、その河の傍に町を作っていた。その星では、灌漑工事をするロボットが多数作られていた。それらは、照る照る坊主型で、逆様になって、スカートの中から特殊な音波を出して、上空の雲や水蒸気を雨に変えるロボットであり、風呂桶の形で、水を運んで、シャワーで畑に水を撒くロボットであり、フォークのような形で、地面を突いて、地下水を噴き出させるロボットであった。そして水がある場所に住んでて、人間と同様に尻尾が無くて、脚が長いカエルは、神の使いとされて、神像はカエルの顔をしていたが、カエルの足では二本足で立てないので、無理やりカエルの足で直立させた像と、足が人間の足に似ている像と、足が鳥の足に似ている像が混在していた。そして、最強のロボット兵器も、しばしばカエルの顔に作られていた。

 王朝の軍隊は、地上戦艦を主力とし、地上戦闘機と呼ばれる一人乗りの小型戦車を多数積んでいた。地上戦闘機は空を飛べないが、砂漠と道路を高速で走った。また、地上戦艦は砂漠と道路しか走れないので、岩場ではキンズバーン戦車が使われた。キンズバーン戦車は、胴体の四隅から脚が一本ずつ生えていて、前部からは砲塔である頭部が生えていた。砂漠と道路では、姿勢を低くするために、屋根の四隅から脚を生やしてクモのように歩き、岩場では、胴体を上下逆に回転させて、底面から生えた脚で、犬や馬のように歩いた。

1 解説

 この作品は、2018年の11月に、ジョーヴェ編を書き終わった後に書き始めて、2019年の二月に書き終わりました。ゲロイア(Geloia)とは、ギリシャ語で「ひょうきんな」とか「笑うべきもの」という意味です。キンズバーン戦車は、マーセル・キンズバーンの古代生物がモデルです。化石が発見されてないので、仮説に過ぎないですけど、首を180度ねじって、脊椎動物の先祖になったらしいです。

2

 

 イノゴ・ハレッド・ベレロフォンテ6世が王であった時に、テロリストが、アンドリアスというロボットに乗って反乱を起こした。アンドリアスは、イモリが二本脚で立って直立したような姿であった。地上で走る時は、アルファベットのTのような姿勢であり、ステムは脚部、右のアームは尻尾、左のアームは頭部と胴体であった。地上で歩く時や立ってるだけの時は、胴体を上に起こして、首を曲げて頭部を前方に向けるので、アルファベットのFのステムが胴体と脚部、バーが尻尾、アームが左にずれて逆向きになったのが頭部という姿勢であった。そして水中で移動する時は、首を真っ直ぐにして、胴体と頭部を前方に向けて、脚部を後方に向けるので、ハイフンの右半分が尻尾と脚部、左半分が頭部と胴体という姿勢であった。二足歩行をするロボットは、当時としては画期的であったが、オートバランサーの性能が不十分であったので、長い尻尾でバランスをとっていた。それらは背中に二基の、イモリの幼生に似た形のポンプジェットを付けていて、運河の中で潜水して、高速で移動していたので神出鬼没であり、10数メートルの身長しか無かったにもかかわらず、陸上でも、小回りが利くので、王朝の主戦力であった地上戦艦よりも強力であった。王朝は、最初は押されていたが、鹵獲したアンドリアスの頭の上に、高性能のオートバランサーを搭載したオタマジャクシ型のパーツを付けて、必要が無くなった尻尾を取り外して、アニューリー・ディプロセファルスと名付け、それはやがて、単にアニューリーと呼ばれるようになった。それは、頭部がオタマジャクシで、胸がカエルの顔のような姿であった。そしてアニューリーを複製して量産し始め、騎士達はアニューリーに乗ると、アンドリアスと互角に戦って押し返し始めた。

3

 そんな時に、まだ少年であったイノゴ・エノック・ガニメデス7世は、独自の設計でラナの実験機を四体作った。ラナは、カエルの顔をした人間のような姿であった。一体目は顎の下が銀色で、それ以外は紺色で、四週間中の一週間目に機能を停止して、自動で自己メンテナンスをするように出来ていて、テストパイロットとしてオリゲンが乗り込んだ。二体目は、顎の下と腹部と上腕部と腿が銀で、それ以外が黒に塗られ、意味も無く胸が赤い板で飾られていて、四週間中の二週間目に機能を停止して自動で自己メンテナンスをするように出来ていて、テストパイロットとしてエヴァグリィが乗り込んだ。三体目は、顎の下と腹部と上腕部と腿が銀色で、頭は赤、胸と足は上半分が赤で下半分が濃い青で、それ以外は濃い青で、所々に黄色い突起や飾りがあって、四週間中の三週間目に機能を停止して自動で自己メンテナンスをするように出来ていて、テストパイロットとしてディディムが乗り込んだ。四体目は顎の下と腹部と腕と腰と脚が白で、胸は明るい青で、足は上半分が白で下半分が赤くて、コクピットハッチも赤くて、所々に黄色い飾りと突起が着いていて、四週間中の四週間目に機能を停止して自動で自己メンテナンスをするようになってて、テストパイロットとしてキリルが乗り込んだ。そしてイノゴ7世自身も、フライシュマンガラスガエルに似た姿の、外装が透明なプラスチックで出来ていて、中の機械が見えていて、背中には、中に埋まって見えない機械の動きと連動して光るランプが付いていた。

4

 そしてデータを充分に集めると、完成品のラナを作って、オルドアと名付けた。オルドアは全身が黄色に塗られて、モウドクフキヤガエルに似ていた。そしてそのオルドアに乗って、アンドリアスと戦い始めた。オルドアはアンドリアスよりも強力だったので、騎士達も、アニューリーから、量産されてラナと名付けられたオルドアに乗り換えて戦い始めた。ラナは陸戦専門であったので、アニューリー達は、アニューリーIIに改装された。アニューリーIIは、身体各所に、オタマジャクシ型の飛行ユニットが配置されて、空を飛ぶ事が可能であったが、潜水が出来なくなったので、王朝製のアンドリアスも作られるようになった。こうして、ラナは地上でアンドリアスと戦い、空中からアニューリーIIが支援し、運河では王朝製アンドリアスが敵のアンドリアスと戦って、テロリストの反乱を、完全に鎮圧した。

5

 

 アンドリアスはイモリが二本足で立ったような格好で、量産機は黒と赤で塗り分けられていたが、一機だけ全身がピンクで、左右の頬に三本ずつの、ラジエーターを付けて、体内に三基のジェネレーターを搭載した機体が、凄い速さで走り回っていた。その他のワンオフ機としては、イベリアトゲイモリに似た機体が、その背中から無数の剣を突き出し、背後の敵を穴だらけにした。それからアニューリーは、顔がオタマジャクシで胸がカエルの顔で、ラナはカエルが二本脚で立ったような姿であった。戦後、アンドリアを改良した、サイレンという水中バスが作られた。それは運河の中を通って、港から港へと渡り、両手で港のボラードを掴んだが、陸には上がらないので、脚は無かった。胴体は客席に改造されていて、乗客は、口から乗降をした。

6

 イノゴ・エノック・ガニメデス7世は少年であった頃に、ラナ・オルドアを作って乗り込み、アンドリアスと戦った。オルドアは黄色いモウドクフキヤガエルに似ていた。そして王として即位した後、オルドアは城の庭に飾られ、オルドアを市販の部品だけで作れるように設計し直した機体が、コモン・ラナとして一般向けに市販された。そしてオルドアを新技術で改良した機体が、ラナ・ツァパルディアとして、制式に量産されるようになった。ツァパルディアは、ヒメアマガエルが鎧を着たような姿であった。

 騎士になりたい者は、自作のラナに乗って、他の騎士志望者のラナと試合をして経験を積んで、王に認められた者が、騎士に任命されて、国からツァパルディアを与えられるようになった。ツァパルディアの駆動系は、イオン・アクチュエーター・システムであり、弗素9価陰イオンとネオン9価陽イオンという電離ガスが、エネルギー原として使われていた。ツァパルディアの上半身はMB-77であり、下半身がMG-92、そしてコクピット・ブロックがGC-63であった。MBはメカニック・ブラッサートで、機械の籠手という意味で、MGはメカニック・グリーヴで、機械の脛当てという意味で、GCはグレート・キュイラスで、大きな胴鎧と言う意味であった。

 ゲロイア星は、錫が豊富であり、錫にアンチモンと、幾つかの成分を加えて、非常に硬い錫合金を発明した。そして、鉄が作られる前は、その硬い錫で鎧を作っていて、強度が必要な部分には、銅にアンチモンと、幾つかの成分を加えた、硬い銅合金を使っていた。そして鉄が作られるようになった後も、美しくないという理由で、鉄の鎧に、銅色と錫色の塗装がされていて、後には、新米の騎士の鎧は水色とオレンジ、一人前の騎士の鎧は水色と緑、ベテランの騎士の鎧は水色と紺色で彩色されるようになった。ツァパルディアも、それらの色で塗られていた。ツァパルディアを乗せて飛ぶ飛行ユニットは主に二種類が使われていて、一つはローシャンという名前の、オタマジャクシ型の飛行機であり、地上では馬の様な脚が生えて地上を走り、空中では脚を収納して飛んでいた。形式番号はGLA-90で、GLAとはグロウエイブル・リムド・エアロネフの略で、生育可能な手足のある飛行機という意味であった。それはスピードが必要な場合に使われた。

 もう一つの飛行ユニットは、ネヌファルという、浮き草の葉のような形の飛行機であり、その形式番号はUF-163であった。UFとは、アンヴァリエイブル・ファイター(変形しない戦闘機)の略であった。それは、空中に止まって活動する場合に使われた。

7

 

 イノゴ7世の治世下のゲロイア星では、地球のニホンアカガエルに似たロボットが、一般社会でコモン・ラナという名前で市販されていた。そのコモン・ラナを高地用に改造したのが、グラウシュピッツであった。それは地球のヤマアカガエルに似ていた。グラウシュピッツは、山仕事用なので、エネルギーが沢山必要だが、空気が薄いので、下顎に吸気口兼排気口を多数付けられたので、下から見上げると、下顎に黒い点が沢山あるように見えた。そして、前腕部と下腿部に酸素タンクを付けられていた。コモン・ラナは、口先から、鼻と目を通って後頭部に伸びる線が、左右に一本ずつ引かれていて、真っ直ぐであったが、グラウシュピッツは、特製品だという事を示すために、目の後ろの黒い三角形から離れる部分で、線が曲がっていた。

8

 

 騎士志望者のアッツ・C・サクライオスがコモン・ラナを改造して作ったストリームβは、地球のナガレタゴガエルに似ていて、強敵と戦う時は、動力炉をフル回転させて、全身の放熱板を開いたフル・ジェネレイティング・モードになった。

 

 また別の騎士志望者のトノ・ダルマは同じ発想で、地球のトノサマガエルに似たJペロフィラックスを作った。普段の姿はビショップ・モードであり、強敵と戦う時は、タイラントモードに変形した。頭の上から、トサカのような放熱板が出て、胸のシャッターが開いて排気ダクトが露出して、肩当てが横に広がって放熱板として働くようになって、スカートがミニからロングになって、分割されて広がって放熱板として働くようになって、脛の下半分が脛の上半分の中から押し出されて、ロケットノズルが露出した。

 

 コロステートス・プラッティが作ったアニューリーII・プラッティは、プラットコオイガエルに似ていて、空中戦を得意とした。彼はまた、アニューリーII・プラッティから、コクピットブロックがある腹部を取り除いて、自動操縦兼遠隔操縦のラヤンダも作らせて、アニューリーII・プラッティに従わせた。ラヤンダは胸の下がすぐ腰で、腹部が無い他、区別をしやすくするために腕と脚を赤く塗られていた。ラヤンダは無人ロボット兵器として使い勝手が良かったので、後に敵に接収され、フローテイターという名で量産された。

 

 騎士志望者ペリ・グレーヌ・ド・ビュフォンが作ったクラポー・ドーレは、地球のオレンジヒキガエルによく似たロボットであった。本体は、黄色地に、赤と黒の点が沢山付いていて、甲羅はオレンジ色で、強敵と戦う時は、甲羅が外れて、もう一体の、無人で動くラナになって、二体で攻撃をしていた。

 

 夫婦が二人で乗るラナもあった。夫のピーター・アーガスと妻のポーラ・ハイペロリアス・アーガスが作ったラナ・ハイペロリアス・アーガスであり、右半身は、地球のアルゴスクサガエルのオスに似た模様であり、左半身はアルゴスクサガエルのメスに似た模様であった。強敵と戦う時は、二人並んで座っているコクピットの中に仕切りが出来て、機体が左右に、真っ二つに切れて、二つに分かれると、頭の下半分の中から再生頭蓋骨がせり出して上にずれて、頭蓋骨から目が飛び出した。カエルの肩甲骨は前の方まで伸びて、胸骨に繋がっているので、背骨と胸骨を軸にして起き上がって、鎖骨も起き上がって、肩甲骨と鎖骨が互いに支えあうようにくっついて固定されて、折り畳まれてた腕の骨が展開した。そして仙骨と腸骨が繋がったパーツは、尾端骨の上端と下端を軸にし回転して展開し、折り畳まれてた脚の骨が展開して、再生足は、骨に靴底がくっついてるようなデザインであった。本物のカエルと違って、脚は腸骨の下端から生えていた。背骨は突起と穴が、互い違いに並んでいて、再び合体する時は、片方の突起がもう片方の穴にはまるようになっていた。

 

 サキッシュ・マライスは、サキシマヌマガエルに似ていて、足の裏にホバーが付いてて、移動時には踵から車輪が出て、止まる時や方向転換する時には爪先から杭が出た。そしてジャンプをする時は、脛の中で爆発が起こって脛の骨が飛び出して、脛が二倍の長さになって、脛の脇から空薬莢を排出し、着地する時は、二倍の長さになってた脛が、ゆっくりと縮んで、衝撃を和らげた。

 

 G・ライヤーが作ったトードセントールは、ニホンヒキガエルに似ていて、必要に応じて、脇腹から隠し腕を出して、四本腕で戦った。そして不整地では、脚が付け根から回転してガニマタになり、脇腹から隠し腕を出して、肩と内部胴体が、胴体の中から上に押し出されて、内部腰で折れ曲がって外部胴体と脚が前に倒れて、隠し腕で地面を踏んで、カエルのケンタウロスのような姿になった。

 

 ローゼンベルクが作ったラナ・グラディアトールは、ローゼンベルクアマガエルに似ていて、体の色んな場所に、ソード、レイピア、シミタール、マンゴーシュ、日本刀その他の、沢山の種類の剣を収納していて、前腕部に付いている円盤が、袖口を軸にしてめくれると、その円盤の裏にもツメがあった。

 

 ラナ・コキはコキーコヤスガエルに似ていて、全身を光らせて、光の球になった状態では無敵で、空を飛ぶ事が出来て、どんな敵も、体当たりで吹き飛ばした。

 

 サムエル・バジェットが作ったレピッド・ラナはマルメタピオカガエルに似ていた。岩の塊りのような鎧を着ていて、鎧を脱いで裸になると、スピードアップした。そしてうなり声で、見える範囲にある家を吹き飛ばした。

 

 トーマス・ベルが作ったセラトフリス・オルナータは、ベルツノガエルに似ていて、穴掘りが得意なので、畑を耕したり、工事を手伝ったりしていた。戦闘時は、強敵と戦う時に、リミッターを解除すると、ビーストモードになって、自動操縦で激しく戦った。レピッド・ラナとセラトフリス・オルナータの試合の様子はこうであった。最初はセラトフリス・オルナータが一方的に攻めていたが、鎧に阻まれてダメージを与えられないでいた。レピッド・ラナが鎧を脱いで、素早く動けるようになると、セラトフリス・オルナータは裸の機体ならダメージを与えられると思って、ツメで刺そうとしたが、レピッド・ラナがその手を空手チョップで切り落として、セラトフリス・オルナータを抱きしめて吠え始めた。セラトフリス・オルナータは、レピッド・ラナの声の衝撃でダメージを受けたが、そのまま走って押して、レピッド・ラナを後ろの岩に何度もぶつけ始めた。レピッド・ラナも負けずに何度も吠えて、セラトフリス・オルナータにダメージを与え続けて、両者とも、ほぼ同時に機能を停止した。

 

 トリコ・ロブストスが作ったラナ・ペルーダは、ケガエルに似ていて、腰周りから、沢山の動力パイプが生えていた。通常の仕事は、機体内部を通るパイプだけで充分であったが、力仕事をする時は、必要に応じて、全身の関節に、一つから五つまで付いているアダプターに、動力パイプの先端を差し込んで働いた。幾つかの企業が、トリコ・ロブストスにライセンス料を支払って、各社で使うラナ・ペルーダを作った。

 

 モーリス・ドランカーが作ったラナ・ラヴビーアは、モリアオガエルに似ていて、胸には、ビールの絵が描いてあった。指先に開いてる穴から、泡を吹き出して、泡に包まれた敵は、泡が固まるので、動けなくなった。

 

 レインワードが作ったラナ・ヴォランテは、レインワードトビガエルに似ていて、前腕部と脛に付いてる紺色の板を展開すると、ローターになって、空を飛べた。脹脛とハムストリング部分と、腕を曲げたら内側になる部分が金色であり、金色の部分が発熱して黄色く光っている時は、ラリアットと後ろ回し蹴りで、敵を溶断した。

 

 テリー・ストロングファーザーが作ったアフリカン・ブルは、アフリカウシガエルに似ていて、身長が高くて真丸に太っており、巨体とパワーを生かした格闘が得意であった。遠距離の敵に対して戦う時は、口を開くと、中に二つの目と、その上の、人間の額のような位置に大型のビーム発射口があって、その発射口から大出力ビームを射出した。

 

 フィサライモス・ナッテレーリが作ったラナ・クワットロッキは、クイアバドワーフガエルに似ていて、お尻にも目が二つあったので、背後からの攻撃も効果が無かった。操縦席では、前方斜め下に、透明な板で出来たスクリーンが配置されていて、後ろの様子が、半透明の映像で出るようになっていたが、ナッテレーリ自身は、後ろばかりを気にしていて、顔を左右に向けないと横が見えない事を忘れていて、側面からの攻撃が見えなかったので、横からの不意打ちにより敗北した。

 

 ラナ・パラドッサーレはアベコベガエルに似ていて、宇宙開発に使われた。大型のバックパックのアタッチメントにブースターを付けた姿は、手足が生えて顔がカエルらしくなった巨大なオタマジャクシのようであった。ブースターから火を噴いて宇宙に飛び上がり、宇宙に着いたら、ブースターを切り離して、人工衛星の組み立てや修理などをした。バックパックと、身体各所の追加装備に、色んな道具を入れていた。作業を終えて帰る時は、バックパックと追加装備を捨てて裸になり、それらは大気の摩擦熱で燃え尽きて、ラナ・パラドッサーレの本体は、冷却ガスを噴出しながら降下して、大気圏内に来ると上半身と下半身を切り離して捨てて、腹部の中にあったコクピットブロックが、オタマジャクシ型の飛行機に変形して、飛んで帰還した。

 

 ダライアス・ナッシュ・コウチが作った、ビバリウムという巨大な飛行物体は、立方体であり、前面は緑で、それ以外の五面は土色であった。前面は中央にカエルの顔が付いてて、その両側には、花のように見えるミサイルランチャーやビーム砲が、多数配置されていて、背面にはロケットノズルがあり、底面からは、ランディングギアが出るようになっていた。格闘戦をする時は、中からコーチスキアシガエルに似た姿のスカフィオプスが飛び出した。スカフィオプスは、爪先からヒートナイフが出て、主に蹴り技で戦った。

 

 ラナ・ナリゴナは、ダーウィンハナガエルに似ていて、コクピットは腹部にあったが、胸部の中に椅子が沢山あって、大勢の人を乗せる事が出来た。そして胸が前に張り出すと、通常の二倍の人数を乗せる事が出来た。それは車で行けない場所に人を運ぶ時に使われたが、元々は、戦場に兵士を運ぶために開発されたので、胸の装甲が分厚くて、敵に襲われた時に武器を持って戦えるように、手も付いていた。目的地に着くと、四つん這いになるが、頭部と胸部は一体であり、腹部と繋がっている両肩を軸にして回転して垂直を保ち、人は口から出るエスカレーターを使って、乗り降りをした。

 

 ラナ・ナリゴナが、主に作業員や大工などを運ぶのに使われたのに対して、ピパピパは、観光客を運ぶのに使われた。ピパピパはコモリガエルに似ていて、常に四本足であって直立はせず、低速の時は歩き、高速の時は、地上より少し高い場所を飛んだ。背中には沢山の穴があって、穴の中には客席が一つずつあり、必要に応じて透明なドームで覆われた。

 

 オォファガ・プミリオが作ったラナ・フラゴラは、イチゴヤドクガエルに似ていて、背中には、オタマジャクシ型の飛行銃を多数装備していた。戦闘の時は、飛行銃を切り離して、遠隔操作をして、オールレンジ攻撃をした。

 

 クラポー・アクーシュールは、サンバガエルに似ていて、腰にヒートロザリオを巻きつけていて、戦闘の時は、そのヒートロザリオを振り回して攻撃した。

 

 ラナ・シルヴァティカはアメリカアカガエルに似ていて、寒冷地仕様であり、戦闘の時は、口から液体窒素を吐いて敵を凍らせた。

 

 ラナ・リマはアジアウキガエルに似ていて、水の上に立つ事が出来た。

 カッシーナが作ったラナ・コレドーラはセネガルガエルに似ていて、走るのが得意であった。ラナの足はフロッグ・フット、チキン・フット、トルー・マン・フット、そしてフェイルス・マン・フットの五種類があった。フロッグ・フットは本物のカエルの足に似ていて、踵の前方に長い板が生えてて、その板の前方から五本の指が生えていて、薬指が一番長く、中指と小指はその次に長く、人差し指はその次に長く、親指は一番短かった。本来は二足歩行に不向きであり、巧妙にバランスを取って無理矢理立っているので、戦闘は出来なくて、主に式典用であった。チキン・フットは、鳥の足に似ていて、三本の趾が前を向いてて、一本の趾が後ろを向いていて、二足歩行が容易で、戦闘も出来た。カエルの絵をいい加減な描き方をすると、手足が鳥の足に似た形になるので、本物のカエルに少しは似せようとこだわりを持つ人達に使われた。トルー・マン・フットは、人間と同様に、踵の前方に中足、そして中足の前方に爪先が付いてて、人間と同じ動き方をした。そしてフェイルス・マン・フットは、足首の斜め下後方に踵、足首の斜め下前方に中足、そして中足の前方に爪先が付いてて、トルー・マン・フットよりは、動作の制御が容易であった。そして走り方には、人間と同様に、右腕と左脚が同時に前に出る走法と、右腕と右脚が同時に前に出る走法の二種類があった。右腕と左脚が同時に前に出る走り方は、機械での制御が難しかったが、人間に似た動きなので、パイロットはラナの動き方を把握しやすかった。それに対して、右腕と右脚が同時に前に出る走り方は、コンピューターで制御しやすい代わりに、パイロットが動作に慣れにくくて、走る姿が滑稽だとして嫌う者もいた。カッシーナは、四種類の足と二種類の走り方を組み合わせた、八種類の走法を何度もテストしてデータを蓄積した。

 

 ガストロテカ・コルヌータが作ったラナ・マルスピアーレ・コルヌータはツノフクロアマガエルに似ていて、背中に装着している格納庫から、ミニサイズのカエル型ロボットのラ二ータを多数出動させた。ラニータは人間より一回り大きい自動操縦ロボット兼パワードエクソスケルトンで、生身の人間には出来ない危険な仕事を無人で行ったり、精密な作業が必要な力仕事を有人で行なったりした。

 

 スタンパ・レオパルドが作ったブラキチェファロ・レオパルドは、ヒョウガラコガネガエルに似ていて、直立するには、三脚のような形の三本趾の足で充分ではないかという事で、足がそのような形に作られた。そしてブラキチェファロ・レオパルドの手は指が二本だけであり、武器を掴むだけの、最小限の機能だけを持っていた。通常、ラナの手は三種類があって、一つはフロッグ・ハンドと呼ばれる、本物のカエルの手に似た四本指で、薬指が一番長くて、小指と中指が少しだが短くて、人差し指は更に短くて親指を欠く手は、仕事が殆ど出来なくて、式典用意外に使われる事は稀であった。二つ目はチキン・フット・ハンドで、三本の指と一本の指が逆向きに生えてて、ある程度の仕事は出来たが、人間の手には似てないので、動作プログラミングが困難であり、カエルに似せようとこだわりを持つ者だけが使用した。三つ目はマン・ハンドで、人間の手と同じ形なので、様々な仕事が出来て、プログラマーが自分の手を見ながら、動作プログラミングが出来た。

 

 イノゴ・エノック・ガニメデス7世が最初に作ったラナ・オルドアは、身長が12メートルであったが、騎士や騎士候補者達は、強いラナを作ろうと、様々な技術を盛り込んだので、ラナ達は恐竜的進化を遂げて大型化していた。イノゴ7世が王位に就いてから設計したツァパルディアも、王の信任篤いジェイガン・アージム・ハッチキューが多くのラナ達のデータを元に改良した結果、最終的には身長が16メートルにまで大型化した。そんな中で、ペドフリーネ・デ・アマウは小型のラナの、ラナ・デ・アマウを作った。それはアマウコビトガエルに似ていて、椅子に座って操縦が出来る最小の大きさで、身長は4メートル程であった。パイロットの頭はラナの頭部に収まり、腕と胴体と腿および、椅子の背もたれと座面は胸の中に納まり、脛と足は腹部の前半分に納まり、乗降時は、胸の前面と上面と頭部が一体となって、背中の上端を軸にして跳ね上がった。ラナと似た形状の、動力付きの鎧のようなラニータが既にあったので、ラナとは座席に座って操縦するロボットで、ラニータはパイロットの動きをトレスして動くロボットと再定義された。

 

 逆に、大型のラニータを作った者もいた。短剣使いの名手であったバビーナ・スーバスペラは、得意な短剣での格闘をラナでやろうとして、コクピットに操縦席を置かず、パイロットは電線が付いた鎧を着るようにした。それはオットンガエルに似ていて、ラナ・スーバスペラという名前であったが、ロボットがパイロットと同じ動作をするので、厳密には大型ラニータであった。

 

 アンリ・エミール・ソヴァージュはラナ・フィロメデューサを作った。それはソバージュネコメガエルに似ていた。ラナ・フィロメデューサは操縦席が二つあり、ラナとして使いたい時は操縦席と操縦桿やスロットルやペダルがある方を使い、ラニータとして使いたい時は、もう一つの操縦席に移って、全身に鎧を着けた。

 

 グラシクサロス・リューマリオスが作ったラナ・ラスパはネコジタアマガエルに似ていて、シルエットこそは普通に見えるが、前身に細かいトゲを沢山付けていて、主に相撲やレスリングで戦った。

 

 マイオバトラカス・ガウルディーは防御力を追求して、カメガエルに似たラナ・トルトゥーガを作った。全身をブヨブヨした分厚い装甲板に覆われていて、カメの甲羅に似た盾を持って、その盾の裏に武器を収納していた。それはカメラである目が傷つかないように、あまり飛び出してないなど、あまりカエルらしくない顔だったので、甲羅の無いカメが人工の甲羅を持ってるなどと、悪口を言われていた。また、マイオバトラカスの友人であったフライノップス・ヒラリーは、嫌がらせ半分に、カエルらしい顔だが、首が伸縮自在で長く伸びて、体はカメに似たふざけたデザインのロボットのトルトゥーガ・カンパニータを作って、防御力のテストにしばしば就き合った。それはヒラリーカメガエルに似ていた。

 

 サイクロラナ・プラティーセファラは、運河から離れた地方に水を運ぶために、市販のコモン・ラナから不要な部品を取り除いて、隙間に貯水タンクを備え付けて、ラナ・コンテンドール・デ・アグアを作った。それはミズタメガエルに似ていた。

 

 ブレヴィセップス・アドスペアソスが作ったラナ・デ・リューヴィアは、アメフクラガエルに似ていた。外装の表面に、微小な風船を含んだ弾力性のある装甲を貼り付けていて、その装甲に空気を送って膨らませて、敵の目を晦まして攻撃をした。

 

 ネクトーフリュノイデス・アスペルギーニスが作ったラナ・ヴァッサーヴェアファーは、キハンシヒキガエルに似ていて、畑に水を撒いたり、消火活動をしたり、時には警察に呼ばれて暴徒に水をかけたりした。

 ペドロ・デ・キトとディエゴ・デ・キトが作ったアニューリーII・デ・キトは、キトコオイガエルに似ていて、火山が噴火した時に、バスを抱えて麓の町に飛んで行って、人をバスに乗せると、そのバスを抱えて安全な場所まで飛んて運んだ。

 

 ペルトフリューネ・レムールが作ったラナ・コンチョはプエルトリコヒキガエルに似ていて、貝殻に似た武器で敵を挟んで捕まえたり、そのまま貝殻を閉じて押し潰したり、閉じた貝殻で打ったりした。

 

 ドゥタフリノ・メラノティクトは、ヘリグロヒキガエルに似たラナの、サポ・コムン・アシアティコを作った。彼はまた、アンドリアスから水中航行に必要な部品を取り除いて、体は高速走行の姿勢で、首は上に向けて、頭部は前に向けた姿勢に固定して、その姿勢で速く走るように改良してデイノニクスと名付けて、サポ・コムン・アシアティコが乗る馬として使用した。

9

 惑星ゲロイアの、ある町にトラキスと呼ばれる少年がいた。彼は学校を卒業すると、小遣いをまとめてラナを売ってる店に行った。すると店の主人は「こんな金じゃ足りないな」と言った。そこでトラキスは「それなら今日は足だけ作りたいと言った。店の主人は「まあ、足だけなら作れるな。どんな足にしたいか」と言った。トラキスは「踵に車輪を付けて、急ぐ時は車輪を下に向けて、爪先を浮かせて車輪を回すようにしたい」と言った。すると店の主人は「作る準備をするから、しばらく待っていろ」と言って、機械のスイッチを入れて、工具を出し始めた。そこでトラキスは椅子に座って、カバンからお菓子を出して食べ始めた。そのお菓子は、表面はダークチョコレートとホワイトチョコレートで色分けされていたが、中身はケルノンだったので青かった。そこに店の主人が来て、「すまんな。今錆び止めは切らしてるんで、中の機械もコクピット色で塗って良いか」と言った。錆び止めとはピンク色の塗料であり、コクピット色とは水色の塗料であった。トラキスは「外から見えないから中の機械が水色でも別に変じゃないだろう」と言ったが、店の主人は「ほんの僅かだけ割高になるな。足だけなら大した額じゃないが、全身が出来る頃には差が大きくなるだろう」と言った。するとトラキスは「まあ、全身が出来るまで何か月もかかりそうだから大丈夫だ」と言った。店の主人は「よし決まった。この書類にサインしてくれないか」と言って、トラキスは書類に「Traquicefalo De Leche Resinifictriz」と書いた。店の主人は「君はトラキセファロ・デ・レーチェ・レシニフィクトリスというのか」と言った。トラキスは頷いた。店の主人は「ラナの名前も登録しなきゃいけないが・・・」と言って、トラキスが食べていたお菓子を見ると、「そのお菓子みたいな色のカエルがいるんだけど、アマゾンミルクガエルというんだ」と言って、店の奥に走っていくと、カエルの図鑑を持って戻って来て、トラキスにアマゾンミルクガエルのページを見せた。それは肌が濃い茶色と白で、口の中は水色で、目の縁は金と黒であった。トラキスはアマゾンミルクガエルの写真を見て笑って「こんな色で良いよ」と言った。店の主人は「それじゃあラナの名前はどうするか」と言うと、トラキスは「ちょっと待って。名前はすぐに決められないよ」と言った。店の主人は「とりあえずラナ・デ・レーチェにしておこう。名前が決まったら書き直すから言ってくれ」と言った。それから店の主人が値段を言うと、トラキスは「De Otrera a Traquiz」と書かれた封筒からお金を出して、店の主人に渡した。

 

 翌朝、トラキスはミルク配りをして、給料を貰った。家に帰ると、母のオトレラ・レシニフィクトリス・ラ・レイナ・デ・アマソナスが彼に「騎士になりたいなら剣の稽古をしなさい。剣の稽古を毎日したらお小遣いをあげるけど、稽古をしないなら働きなさい」と言った。そしてトラキスはオトレラとフェンシングの稽古を始めた。

 

 トラキスは自宅でラナ・デ・レーチェの設計図を見ていた。足の骨は既に完成していたが、そこから先はまだ白紙であった。後ろを向いている第一趾の角度を変える事によって、踵の車輪を地面に着けたり離したりする仕組みであった。第二趾と第三趾と第四趾は前を向いていて、中足と爪先の中に入る予定であった。トラキスは、まだ作ってない脛の骨を描き始めた。膝の下には脛骨と腓骨があって、足首の上には跗蹠骨があって、普段、跗蹠骨は脛骨と腓骨の間に収まっているが、ジャンプをする時には、跗蹠骨が脛骨と腓骨の間を勢い良く滑り下りて、脛の長さが二倍に伸びるようにした。その時、かすかに地面が揺れた。すると母のオトレラがトラキスの部屋に来て「近くで二人の騎士が試合をしているから見に行きなさい」と言った。トラキスは家を出ると、白いラナと金色のラナが対峙しているのを見つけて、もっとよく見える距離まで走って行った。ラナは身長が12メートル程の巨大ロボットなので、近付き過ぎると危険なので、充分に見える距離まで来ると、立ち止まった。白いラナはセマダラヤドクガエルに似たムーンシャインであり、背中に無数のオタマジャクシ型のパーツを付けていた。そして金色のラナはキンイロアデガエルに似たマンテラ・ドラータであった。ムーンシャインの背中に付いていたオタマジャクシ型のパーツが背中から離れて空中に浮いた。それを見たトラキスは思わす「本物のガングースだ!」と言った。ガングースとは、遠隔操作、或いは自動操縦で飛ぶ銃であった。ムーンシャインがマンテラ・ドラータを指指すと、ガングースに搭載されたコンピューターがマンテラ・ドラータを敵と認識して、その敵めがけて飛びながら陽電子ビームを撃ち出した。マンテラ・ドラータはそれらのビームを避けると、陽電子マスケット銃で一基のガングースを撃ち落した。残りのガングースは通り過ぎると、Uターンして戻って、再びマンテラ・ドラータを撃った。マンテラ・ドラータはそれらのビームも避けながら、周りを飛び回るがグースを一つずつ撃ち落し始めた。一基のガングースがマスケット銃を壊すと、マンテラ・ドラータはヒート・ソードで、残りのガングースを切り落とし始めた。最後のガングースが切られると同時に、ムーンシャインはヒート・ソードを持ってマンテラ・ドラータに飛び掛り、二体のラナ達は剣術で戦い始めた。そしてマンテラ・ドラータとムーンシャインは絡み合いながら、無人の古城に当たって外壁を突き破って、建物の中に消えた。建物の外からは見えなかったが、ムーンシャインがマンテラ・ドラータを蹴り倒して、仰向けに倒れた敵の上に飛び上がってから降下して、ヒートソードで刺そうとした。その時マンテラドラータは鼻の穴から銃弾を発射し、ムーンシャインはそれを避けたが、銃弾が天井に当たって建物が崩れ始めた。そして古城が崩れた。その後静かになったので、トラキスは崩れた古城の残骸をしばらく見ていた後、帰ろうとしたら、ムーンシャインが帰って行くのが見えた。そしてトラキスは家に向かって歩き始めたが、別の場所にマンテラ・ドラータが歩いて帰るのを見つけた。トラキスは家に入るとオトレラに「ガングースはオタマジャクシの形なのにどうしてグースという名前なの。グースって雁でしょう」と言うと、オトレラは「最初に作られたガングースが鳥みたいな形だったからよ。最初のガングースを見た人が、カエルが鳥を使うとはけしからん。オタマジャクシを使えと言って、オタマジャクシ型のガングースを使ったの。その後でガングースを作った人達も皆、オタマジャクシの形に作ったのよ」と言った。

 

 トラキスはラナの店に行くと、脚部と腰を作って貰った。足の骨の形は三前趾足の鳥に似ていて人間にもカエルにも似てなくて、脛の骨は生物では有り得ない構造であり、大腿骨は人間やカエルと同じであったが、骨盤の形はカエルにしか無い独特の形であった。しかし色々な機械を取り付けたので、カエルらしい骨盤は見えにくくなった。店の主人はトラキスに、コクピットはどんな形にしたいかを聞いた。その時トラキスが持ってた予算では、正方形のスクリーンを四枚だけ購入可能だったので、一枚は正面、一枚は斜め右前、一枚は斜め左前、そしてもう一枚は斜め上前に配置した。スクリーンは金が入り次第、継ぎ足して、最終的には正四角形のスクリーンが、床を除いて17枚、正三角形のスクリーンが8枚の、下以外の全方位に視界がある、斜方立方八面体の形の空間にする予定であった。店の主人は、トラキスの希望を聞くと、斜方立方八面体の空間が空けられるように機械を配置して、人間の臍のような位置にコクピットを設けた。

 

 トラキスはラナの店の主人に、アマゾンミルクガエルについて聞いた。すると店の主人は「肉にアントシアニンが含まれてるので肉が青くて、敵に襲われると、白い毒汁を皮膚から出すので、それがミルクガエルという名前の由来だ」と言った。その日は、背骨と胸を骨を作って、機械で肉付けをした。カエルには肋骨が無く、代わりに肩甲骨が、腕の付け根を越えて前に伸びて湾曲して、胸骨に届いて輪の形になる。コクピットの右には、陽電子ビーム砲があり、左には、空中で武器を蒸着生成するインジェクターを配置し、右胸の中にラニータを収納し、左胸に反陽子ビーム砲を設けた。

 

 トラキスは母のオレトラからフェンシングを習っていたが、彼自身は、長くて幅の広い片刃の剣で切る方が戦いやすいと思っていて、剣の設計図を描いていた。それは切っ先は両刃であったが、峰はジェネレーターであり、剣が飛んでいる間も発熱できるようになっていた。そして鍔にはガングースからビーム砲を取り除いた物を付けていた。剣の設計図を描き終わると、机の引き出しに仕舞って、ラナの店に行くと、頭部の骨を作って貰った。店の主人は「今は鼻の穴の中に連射式の大砲を備え付けるのが流行りだ。大した値段じゃないから付けろ」と言った。トラキスは「それは無くても良いよ」と言ったが、店の主人は「必要が無いなら使わなくても良いんだが、あればいざという時に役に立つかも知れないじゃないか」と言って備え付けた。

 

 トラキスはラナの店に、腕の骨を作って貰いに行ったが、店の主人に、ある質問をした。人間の前腕部の骨は、橈骨と尺骨という二本の棒で出来ているが、カエルの前腕部の骨は、橈尺骨という一本の骨である。手は人間の手と同じ形にするつもりであったが、トラキスは店の主人に「人間の肘から先は二本の骨があって、カエルの肘から先は一本の骨があるけど、太い棒一本と細い棒二本は、どっちが丈夫なの」と聞いた。すると店の主人は「肘から先は、皆一本の骨で作っていて、二本の骨があるラナは見た事が無いから、データが無くて比べられないな」と言った。結局、肘から先には橈骨と尺骨があって、第三の謎の骨の先に手があって、普段は橈骨と尺骨の間に収まってる謎の骨が高速で滑って、前腕部が二倍の長さに伸びて、離れた敵にパンチを打てるようにした。

 

 トラキスは剣の設計図をあちこち描き直してから、それを持ってラナの店に行った。店の主人は、骨だけのラナ・デ・レーチェに、白と濃い茶色で塗り分けられた外装を着せた。目は黒い広角レンズで、時々緑色に光り、目の縁は金と黒で色分けされていた。関節部分で剥き出しになっている機械は水色だったので、店の主人は「関節で外から見えてる機械は外装と同じ色に塗った方が良いか」と言ったが、トラキスは「そのままでも良いよ」と言った。店の主人は「他の人達は皆、中の機械の色を嫌がって塗ってくれと言うんだけど、普通のラナは中の機械がピンクだから、確かに格好悪いよな。まあ、君のラナはアマゾンミルクガエルがモデルで、そのカエルは肉が青くて皮膚が薄い部分はその青が透けて見えるから、錆び止め塗装をコクピット色にしたのはラッキーだったな」と言った。そこでトラキスは剣の設計図を店の主人に見せた。刀身は小文字のrを縦に伸ばしたような形で、左の真っ直ぐな方が峰で、右の膨らんだ方が刃先の、片刃であったが、切っ先は両刃なので、突き刺す事が可能であった。峰の部分がジェネレーターで、切っ先と刃先を発熱させるので、ヒートファルシオンと呼ぶのが適当であった。柄は小文字のnの、左のステムで、刀身はその左のステムに繋がっていた。左のニックは峰側の普通の鍔であり、右のアーチは刃先側の鍔であった。そして右のステムは推進装置であり、右のステムの下端部に可動式のロケットノズルが付いていた。店の主人はその剣の設計図を、ラナ・デ・レーチェの左腹部の3Dプリンターに登録した。ラナ・デ・レーチェが完成したので、トラキスはラナに乗って家に帰ると、母のオレトラは「剣の稽古は終わりよ。これからは実戦で腕を磨きなさい」と言って、ありったけのお金をトラキスに渡した。そしてトラキスはラナに乗って旅立った。

 

 トラキスはホテルの部屋で目を覚ますと、窓の外を見た。すると近くの公園に、全身がトゲだらけのラナが立っていて、そのラナの手の平の上で歌っている男がいた。男の名はプリスティマンティス・ミュータビリスであり、ラナの名はパンクロッカーラナで、バケゴムガエルに似ていた。パンクロッカーラナは、プリスティマンティスが乗ってる右手を空中に固定したまま動かさずに、自動操縦で踊っていた。そしてプリスティマンティスが歌いながら飛び跳ねると、ラナが右手を彼が跳んだ方向に動かすので、プリスティマンティスが着地するのは常にラナの手の平の上であった。歌が終わると、ラナがしゃがんで、プリスティマンティスを地面に下ろした。そして彼は客一人ひとりと握手をした。観客は子連れの母親が多かったので、全員と握手をし終わると、彼は「ぼくと戦いたい人はいるかー」と言った。すると子供達が彼の前に集まった。そして順番を決めると、プリスティマンティスはパンクロッカーラナに乗って、少し離れた場所に行き、子供はその場所にとどまり、専属のカメラマンが、近くで右を向いている子供と、遠くで左を向いているラナをカメラの視野に収めた。そして子供とラナが空中にパンチを打って、その様子をカメラマンが撮った。すると同じ身長のラナと子供が殴り合いをしている写真が撮れた。出来上がった写真を見ると、子供は大喜びであった。最後の子供が、ラナと喧嘩をする写真を撮り終わると、プリスティマンティスはラナにお辞儀をさせると、帰って行った。トゲだらけだったラナは、歩きながらトゲが引っ込んで、普通のラナのような姿になった。

 

 パンクロッカーラナが町を出て歩き続けていると、トラキスのラナ・デ・レーチェが近付いて来た。トラキスはコクピットハッチを開くと、パンクロッカーラナに声をかけた。「あなたは身のこなしからして、騎士でしょうか」。するとパンクロッカーラナのコクピットハッチが開いて、プリスティマンティスが「いや、ぼくは騎士じゃないよ。戦うのが苦手で騎士になるのは諦めたよ」と言った。しかしトラキスは「ラナの手の上で踊るのは凄いから、体術の修行をさせて欲しい」と言った。するとプリスティマンティスは「まあ、バランス感覚はベテランの騎士からも褒められた事はあるから・・・、稽古くらいはつけてあげるから着いて来ると良い」と言った。

 

 二人が岩場に来ると、プリスマンティスはラナから下りたので、トラキスもラナから下りた。プリスティマンティスは、岩に跳び乗ると、「ぼくを捕まえろ」と言って、岩から岩へと跳んで走って行った。トラキスも岩の上に跳び上がったが、必死な顔で、足が届く岩まで跨いで行く事しか出来なかった。プリスティマンティスは振り返って戻って来ると、「とりあえずもう少し速く動けるようにならないとね」と言った。夕方頃、トラキスは、岩から岩へと、一歩ずつゆっくりだが、飛び移れるようになった。

 

 昼は青空に雲が一つも無かったが、夜になると、空全体に、青く光る雲があって、明るい80個程の星が、雲を通して見えていて、雲の切れ目に暗い沢山の星が見えていた。惑星ゲロイアは、プレイアデス星団の中にある星なので、夜空には、マイナス五等星が一つ、マイナス四等星が三つ、マイナス三等星が二つ、マイナス二等星が三つ、マイナス二等からマイナス三等に明るさを変える変光星が一つ、マイナス一等星が九つ、零等星が十七個、一等星が三十個、二等星が九十七個あったが、星間ガスが多いので、空自体が薄っすらと青く光っていて三等星以下は殆ど見えず、何ヵ所かのガスが少ない暗い場所に、沢山の暗い星が見えていた。

 プリスティマンティスは空を見ながら「昔の人は、神様は天を御影石で作った後、天使達にサファイアで作ったタイルを天に貼り付けさせたけど、途中でサファイアが足りない事が分かって、薄いタイルを作って天使達に配ったけど、それでも足りなくて、タイルを貼らず仕舞いになった所があちこちに何箇所もあると言ったな」と言った。トラキスは「天は一日で一回転して、太陽は天の表面を一年かけて一周するとも言ってたね」と言った。プリスティマンティスは「そうそう。空は絶対に割れないガラスで出来てて、夜は透明だけど、朝は太陽の熱で焼けて赤く光り始めて、温度が上がるとオレンジ、黄色、白に変わって、昼は青く光っていて、夕方は冷えて白、黄色、オレンジ、赤に変わって、夜はまた透明になるんだな。ガラス職人ってどんだけ昔からいたんだろう」と言った。トラキスは「ガラスを暖め過ぎて白や青く光ってるのは見た事が無いよ」と言うと、プリスティマンティスは「そんなに熱かったら水みたいに流れてコップを作れないじゃないか」と言って、トラキスは思わず笑って、プリスティマンティスも笑った。それからプリスティマンティスは「一番近いホテルはあっちだね」と言って、パンクロッカーラナが指を指して、二体のラナはそちらに向きを変えた。トラキスが「空を見ただけで方向が分かるの?」と言うと、プリスティマンティスは「星の配置や雲の形は変わらないから、覚えておくと方角が分かるよ」と言った。

 

 翌朝、ホテルの部屋で、トラキスが目を覚ますと、プリスティマンティスはテレビを見ていた。トラキスがそばに来ると、プリスティマンティスは「子供に人気がある番組だよ。ぼくの歌を聞きに来るお客さんは子供連れの母親が多いから、子供が好きな番組を見る事を自分に課した宿題にしてるんだ」と言った。テレビには、茶色いズボンと黄色いコートを組み合わせた、軍服のような服を着た男が出ていた。そしてその番組のヒーローが「ハイパーウルトラアッパーカット!」と叫んで、茶色のズボンと黄色いコートの男の顎を下から殴りあげて、殴られた男は「うぎゃららぁ!!」という断末魔の悲鳴をあげて数メートルは飛び上がって、地面に落ちた後、爆発した。トラキスは呆れ顔で「あんな威力の無いパンチで三メートルくらいは飛び上がってる・・・」と言った。プリスティマンティスは「おいおい、娯楽番組は教科書じゃないんだから」と言った。番組では、場面が変わって敵の秘密基地になった。基地の司令室では、超巨大アフロヘアの男が玉座に座っていた。トラキスはそれを見て大笑いした。プリスティマンティスは「そうそう、娯楽は楽しむと良いんだよ」と言った。

 

 トラキスとブリスティマンティスはパンクロッカーラナに同乗してホテルを出た。トラキスが「あなたのラナはどうやってトゲが生えるの」と言うと、ブリスティマンティスは「骨に窪みを作って、窪みの中にトゲ型の風船を入れてから、表面にゴム製の皮膚を被せたんだよ」と言った。ラナが公園に着くと、プリスティマンティスはラナの全身のトゲを膨らませてから、コクピットを出てラナの手に乗ると、歌い始めた。ラナは基本的には、手を一定の位置に固定したままで踊っていたが、プリスティマンティスがジャンプをしたら、着地する場所に手を動かしていた。歌が終わると、プリスティマンティスはコクピットに戻って来て操縦席に座ると、ラナ対子供たちの喧嘩を始めた。茶色いズボンと黄色いシャツを着た子供の順番になると、プリスティマンティスは外部スピーカーを作動させて、「ハイパーウルトラアッパーカット」と叫んで、ラナにアッパーカットの格好をさせた。すると子供は「うぎゃららぁ」と叫んで、アッパーカットを喰らったような格好で跳び上がって、背中で着地して死んだような格好で倒れた。専属カメラマンが撮った写真には、ラナが子供にアッパーカットを喰らわして、子供が真上に吹き飛ばされて、背中から落ちて死んだような、一連のシーンが写っていた。子供はその写真を受け取ると、跳び上がって喜んだ。最後の子供との戦闘ごっこが終わると、プリスティマンティスはラナのトゲを引っ込めさせた。トラキスは「相手の動き方を予想が出来て、予想外の動きをされた時にも対処するなんて、他の人には出来ないでしょう」と言った。

 

 トラキスとプリスティマンティスは岩場に来て、岩の上で鬼ごっこを始めた。トラキスは、かなり動けるようになっていた。それから二人はチャンバラごっこを始めたが、最初はすぐに負けてたトラキスは、そこそこ長い時間戦い続けられるようになっていた。プリスティマンティスは「そろそろ卒業して、ちゃんとしたコーチの所に行った方が良いんじゃないかな。ぼくの癖がつき過ぎると真面目な戦闘は出来なくなるよ」と言った。トラキスは「コーチがそんな都合良く見つからないでしょう」と言うと、プレスティマンティスは「腕に覚えのある人が集まる場所なら・・・、そうだ! 東の方で武術大会があるから、そこに行こう」と言った。そして二人はそれぞれのラナに乗って、東の町に向かった。

 トラキスのラナ・デ・レーチェとプリスティマンティスのパンクロッカーラナは東の町に来た。二人はラナから降りると、武術大会の会場に行った。そこには沢山の騎士や武術家、格闘家がいた。プリスティマンティスは「これだけ沢山の人がいるなら、君の師匠になれる人がいるだろう」と言った。そして二人は別れた。

 

 トラキスは、剣闘の大会に出たが、他の剣士達が強かったので勝てなかったが、その町の領主のイリエオが彼に目を留めた。トラキスが闘技場の外に出ると、イリエオが、彼を呼び止めて、城で食事をしていくように言った。城の者達は皆、トラキスの顔を見て驚いていた。イリエオはトラキスに「わしの息子は歩けるようになった時に、家から飛び出して行方不明になったんじゃ。あんたさんの顔はわしに似ておるが、子供の頃の事を覚えておるか」と言った。トラキスは「ぼくの母はオトレラ・レシニフィクトリス・ラ・レイナ・デ・アマソナスという名前で、ぼくはトラキセファロ・デ・レーチェ・レシニフィクトリスだけど、父の顔と名前は知らないです。父はぼくが産まれた後、ラナに乗って出て行ったと聞いています」と言った。イリエオは「それじゃあ、あんたさんはわしの息子ではなさそうじゃな」と言った。トラキスは「ぼくも母も血液型はB型です」と言った。するとイリエオは「わしも家内もA型じゃ。血は繋がってないな」と言った。そこに執事が来て、イリエオに何か話した後、イリエオはトラキスに「あんたさんの母親は学校でウルトラハイテン鋼・超硬スチレン樹脂合板を開発したそうじゃないか。それまでには無かった凄い装甲材なんで、今のラナは皆それで出来てるそうじゃよ」と言った。は「母は機嫌が悪い時は、昔は女の人は騎士になれなかったのよと、よく言ってました。だけど母がラナの装甲材を作ってた事は知らなかったです」と言った。イリエオは「あんたさんの父親は騎士にならない限り帰らないつもりのなのかねえ」と言った。

 

 食事が終わると、トラキスはまた競技場に行った。そこでラナ・デ・レーチェに乗って、ラナ同士で戦う試合に出た。試合の相手は、ダヴィーデ・スピノーザが乗るラナ・スピノーザで、スピノーザトゲガエルに似たラナであった。ラナ・スピノーザは、トゲ付き鉄球を先端に付けた棒を持っていた。ダヴィーデは「パアーッ!!」と叫んで、ラナ・スピノーザの棒を持ってる腕を振った。パアと叫ぶのは、ダヴィーデが気合いを入れる時の癖であった。ラナ・スピノーザが棒を振ると、先端の鉄球が外れて、中に巻き込まれていたムーバブル・チェーンが、棒と繋がってた部分から出て鉄球をラナ・デ・レーチェにぶつけたが、トラキスの母が開発した装甲材は頑丈だったので、ダメージは無かった。ムーバブル・チェーンとは、ダヴィーデが考案した技術で、アルファベットのCの左側にモーターを付けて作ったパーツを、沢山繋げた物であり、見た目は鎖のような、自在に動く紐であった。鉄球はムーバブル・チェーンを中に巻き込んで、再び棒にくっつくと、今度は前より力を入れて腕を振ろうと構えた。ダヴィーデが「パアーッ!!」と叫んで、彼のラナが腕を振ると、トラキスは自分のラナを操作した。するとラナ・デ・レーチェの下腿部が、爆発音と共に二倍の長さになって、ラナ・デ・レーチェは空中に跳び上がった。ラナ・デ・レーチェが落ち始めると、トラキスはラナを操作した。すると彼のラナが、ラナ・スピノーザを殴ると同時に、前腕部が爆発音と共に二倍の長さになり、ラナ・スピノーザを殴り倒した。ラナ・スピノーザが、足以外の部分を地に着けたので、ラナ・デ・レーチェの勝ちになった。

 

 そして次の対戦相手が現れた。それはラナ・ドラータ二号機という、白いラナであった。トラキスは思わず「白いのにドラータ(金色)という名前なの?」と言った。試合が始まると、ラナ・ドラータ二号機は人間のような走り方で走って向かって来たが、脚の動きが洗練されていて、上半身は揺れずに、空中を滑らかに流れていた。トラキスもラナ・デ・レーチェを走らせたが、彼のラナは全身を揺らしてドタバタと走って、スピードがあまり出なかった。トラキスがラナを操作すると、ラナ・デ・レーチェの踵の車輪が付け根を軸にして下に90度回転して、踵の後ろから踵の下へと移動して、次に車輪の車軸を回転させて、ラナ・デ・レーチェは体を動かさずに、地面の上を滑走し始めてスピードアップした。しかしラナ・ドラータ二号機は人間と同じ走り方のままでスピードを上げて追って来て、距離を縮めて来た。トラキスはラナを操作して、片方の足の裏から杭を出させた。すると地面に刺さった杭を軸にして、ラナ・デ・レーチェが回転して振り向いた。そしてラナ・デ・レーチェが前腕部を爆発音と共に伸ばして殴ろうとしたが、ラナ・ドラータ二号機はそのパンチを避けて、そのまま回し蹴りをラナ・デ・レーチェに当てた。ラナ・デ・レーチェは倒れたので、ラナ・ドラータ二号機の勝ちになった。トラキスのラナ・デ・レーチェが闘技場の外に出ようとすると、ラナ・ドラータ二号機が駆け寄って来て、コクピットハッチを開くと、中から若い女性が出て「あなた、私のお父様に稽古をつけて貰いなさいよ」と言った。

 

 トラキスは、ラナ・ドラータ二号機のパイロットの女性に案内されて、城に来た。彼女は「私はメローぺ・ドラータ。この城はお父様のエノピオ・ドラータの家です」と言った。城に入ると、エノピオ・ドラータが迎えに出てきた。エノピオはトラキスに「娘の対戦相手は皆、戦う前から瞬殺されてたんだ。一旦逃げ切ってから殴ろうとしたのは君が始めてだ」と言った。彼らは城の庭に行くと、ラナ・ドラータと同じデザインで、金色のラナがあった。それはエノピオのラナ・ドラータ一号機であった。メローぺはトラキスに「私が騎士になりたいと言った時に、お父様は私の好きな色を聞いて、私が白と言ったら、同じラナをもう一体作って、白く塗ってくれたの」と言った。エノピオはトラキスに「君のラナに走る練習をさせろ。走り続ければコンピューターが、少ないエネルギーで速く走る走り方を学習する」と言った。

 

 トラキスはエノピオの城で、エノピオとメローぺと一緒に食事をしていた。トラキスが「ぼくの母は学生時代にウルトラハイテン鋼・超硬スチレン樹脂合板を開発したらしいです。母からは聞いた事が無くて、この前初めて知りました」と言うと、エノピオは「私は学校の自由研究で、メタリックのペンキを作ったよ。それまでのペンキは塗ってる間にもアルミの粉が沈むので、塗りながら何度も混ぜないといけなかったので、ペンキより軽いリチウムの極小箔を、ペンキより重いが透明で丈夫な酸化アルミニウムでコーティングして、ペンキと同じ重さの銀色の粉を作ったんだ。詳しい作り方は秘密だけど、特許を取って、ペンキが売れたら私の家に金が入るようにしたんだ」と言った。

 

 トラキスとエノピオはそれぞれ自分のラナに乗って、プロレスをしていた。何回も試合をしていたが、エノピオが全勝した。次にエノピオは、踵の車輪で走れと言った。そこでトラキスはラナ・デ・レーチェの踵の車輪を、踵の後ろから下に回して、車輪を回転させて滑走させ始めた。とエノピオは「君のラナのスペックならもっと速く走れるはずだ。スピードを上げろ」と言った。そこでスピードを上げたら転んだ。エノピオは「何度でも転べばラナが上手な転び方を学習する」と言った。ラナ・デ・レーチェは立ち上がって、もう一回走ったが、また転んだ。エノピオは「さっきより長い時間走れたじゃないか。もっと走れ」と言った。するとラナ・デ・レーチェはまた立ち上がって走り始めた。しばらくすると、ラナ・デ・レーチェは、かなり速く走っても、転ばないようになった。エノピオは「次はラナ同士で剣の稽古だ」と言った。そこで二体のラナは、剣を持って戦い始めたが、ラナ・ドラータ一号機が振り下ろした剣を、ラナ・デ・レーチェの剣が叩き折ると、折れた剣の先が、ラナ・デ・レーチェの両目に当たり、両目とも壊れた。トラキスはコクピットハッチを開いて、目視で外を見ながら戦い続けようとしたが、エノピオが辞めさせた。エノピオは、彼に仕える技師のチェダリオーネを呼ぶと、ラナ・デ・レーチェを離れた町のラナの店に連れて行くように言った。

 

 トラキスとチェダリオーネは、ラナ・デ・レーチェに同乗して、コクピットハッチを開いたままでラナを歩かせていた。チェダリオーネは「もうすぐ岩だらけの場所を歩くから気を付けて下さい」と言った。ラナ・デ・レーチェが岩場の上を歩き始めると、操縦席が揺れ始めた。トラキスが「椅子の後ろで寝られる?」と言うと、チェダリオーネは「寝られるほど広くないな。私の手か君の肩に当たるが気にしないでくれ」と言って、椅子の背に両手を置いて、椅子の後ろに立った。岩場を出ると、また砂漠になった。チェダリオーネは「もうすぐ町に着くぞ」と言った。町に着くと、ラナの店にラナ・デ・レーチェを店の人に預けて、闘技場に行った。試合会場には、エスメラルダ・デ・ヴィドリオが搭乗するエスパダラナ・プロソブレポンと、アデライダ・アルボリコラ・エスベルタが搭乗するラナ・アルボリコラ・エスベルタが試合をしていた。エスパダラナ・プロソブレポンはエメラルドガラスガエルに似ていて、全身が緑で、指が発熱して黄色く光っていた。ラナ・アルボリコラ・エスベルタはアデレートヤセガエルに似ていたが、手足と胴が細くて、足の形はハイヒールに似ていて、袖口とズボンの裾がラッパのように広がっていて、膝の上までを覆うスカートを穿いていて、口が開いていて、口の中には、ヴェネツィアンマスクを着けた人間のような顔があった。頭部は下顎がホワイトチョコ色で、それ以外はミルクチョコ色で、鼻から目を通って後頭部に伸びるビターチョコ色のラインがあった。胴体は背中側がミルクチョコで、腹側がホワイトチョコで、脇はビターチョコであった。手足は外側がミルクチョコで内側がホワイトチョコであったが、腿だけは内側がルビーチョコ色であった。装甲の裏地はストロベリーチョコで、中の機械はケルノンチョコであり、口の中の顔は肌がケルノンチョコで、マスクがビターチョコであった。チェダリオーネは「女型のラナなんか初めて見た」と言って苦笑した。

 

 試合が終わってから二人がラナの店に行くと、ラナ・デ・レーチェの目は修理が済んでいた。すると一人の男が走って来てトラキスに「君がラナ・デ・レーチェの持ち主ですか。エノシヘオ・デ・レーチェ・エナリオの息子ですか」と言った。トラキスは「エノシヘオという人は知りませんが、ぼくはトラキセファロ・デ・レーチェ・レシニフィクトリスです」と言った。その人は「私はエステロぺスという者で、エノシヘオと共にラナを作りました」と言った。トラキスは「エステロペスといったら、陽電子砲を小型化してラナの手持ちの武器にした人じゃないですか」と言った。エステロペスは「光栄であります。ちなみにエノシヘオさんはラナの骨に新技術をぶっ込んで丈夫で力が強いラナを作れるようにしました」と言った。トラキスがエステロペスにラナ・デ・レーチェの設計図を見せると、エステロペスは「エノシヘオさんのラナにそっくりですね」と言った。トラキスは「大部分は家にあった設計図のままですから・・・と言ってから、少し興奮して「エノシヘオさんはどこにおられますか」と言った。するとエステロペスは「一年くらい前に南の町で会ったっけ」と言った。そこでトラキスはチェダリオーネに「南の町に行っても良いですか」と言うと、チェダリオーネはエノピオに電話をかけた。そして電話で話し終わると、トラキスに「これも修行だから行けと言っておられました」と言った。

 トラキスはラナ・デ・レーチェをラナ・デ・レーチェ二世に改名すると、チェダリオーネと共に南の町へと出発した。チェダリオーネは「エノピオ様は、旅をすると予想外の事が起こるので、それが修行になると言っておられます。南の町は、距離がありますし、一週間くらいで着くでしょうけど、途中で、何か所かの小さい町を通ります」と言った。そして二人は、少し前まで町であった廃墟に着いた。チェダリオーネが「この場所はつい最近まで町だったんだか、何が起こったんだ」と言うと、カリフォルニアアカアシガエルに似たオレンジ色のラナが来た。それは鏡のように輝くオレンジと、オレンジの真珠のような色で、塗り分けられていた。そのオレンジのラナのコクピットハッチが開くと、女性の騎士が中から出て、二人に「この場所はろくに休めないから、北の大きい町か、もう少し南の小さい町に行った方が良い」と言った。チェダリオーネが「私はエノピオに仕える技師のチェダリオーネです。この町で何が起こったんでしょうか」と言うと、女騎士は「私はアウロラ・ノルテーニャ・デ・パタス・ロハスで、私のラナはラナ・アウロラ。姓より名の方が好きなので、名の方をラナの名前にした」と言ってから、地上に降りると、「話しが長くなるから、貴方達も適当な石に座りなさい」と言った。それからアウロラは、「この町でヒキガエルに似た怪物が暴れました。正体はラナだと思うけど、人は乗ってなくて、自分で動いていて、傷を負わせてもすぐに自動で修復して、そのたびに姿を変えて強くなります。再び現れた時に、強い騎士達が大勢で戦えば、倒せるかも知れません」と言った。するとトラキスはアウロラに「ぼくを修行をさせて下さい」と言ったが、チェダリオーネがトラキスに「まだ騎士になってないのに無理じゃないか」と言ったが、アウロラはチェダリオーネに「私はこの人を鍛えるから、貴方は強い人達を集めて来なさい」と言った。そこでチェダリオーネは車を借りると、エノピオが住んでる町へ向けて車を走らせた。そして二人だけになったトラキスとアウロラは、それぞれのラナに乗って練習試合を始めた。

 

 二人がラナから下りて、一緒に食事を始めようとした時に、白いラナが来た。トラキスはその白いラナに見覚えがあった。それはセマダラヤドクガエルに似たムーンシャインであった。アウロラは「あの白いラナはアーティミス・ガラクトノータスのムーンシャインだ。私と同じ女騎士が乗っている」と言った。ムーンシャインから、アーティミスが下りて、アウロラと会釈をすると、トラキスを方を見て、不思議そうな顔で「どこかで会いましたか」と言った。トラキスが「貴女はもしかして金色のラナと戦ってませんでしたか」と言うと、アーティミスは「あの町に住んでたんですね」と言って納得した。それからアーティミスはアウロラに「デビルトードは、元はリネッラ・マリーナという、自動修復装置のテストをするために作られたラナだという事が分かりましたが、今は姿が変わっているので、リネッラ・マリーナの弱点を突いて倒せる可能性は低いでしょう。あの少年は強いのか」と言った。アウロラは「あの少年は、最近騎士になるための修行を始めたばかりだ。さっきの練習試合で、一度も私に勝っていない」と言った。するとアーティミスはトラキスに「貴方、食事が済んだら私と練習試合をしなさい」と言った。アウロラもトラキスに「あの人は私より強いよ」と言った。

 

 翌朝、トラキスが目を覚ますと、アーティミスが「起きた? いつでもラナに乗って出られるように支度してなさい」と言ってから、大きなパンの塊を彼に渡して「行儀は悪いけど、適当に齧ってなさい」と言った。トラキスはパンを持ってラナ・デ・レーチェ二世に乗り込んで、コクピットでパンを食べ始めた。アーティミスも、大きなパンを一つ持って「アウロラさんは仲間を呼びに行ってるわ」と言って、ムーンシャインに乗り込んだ。しばらくすると、二体のローシャンが飛んで来た。ローシャンはオタマジャクシの形の飛行機であり、地上では、底面から馬に似た四本の脚を出して歩行して、ラナを乗せて走ったり飛んだりして運ぶ乗り物であり、ラナ用の馬として使われていた。アーティミスは「馬が迎えに来たわ。乗りなさい」と言って、ムーンシャインを操作して、ローシャンに跨らせた。トラキスもラナ・デ・レーチェ二世を操作してローシャンに跨らせた。するとローシャンは自動で飛び立った。やがて二人はラナが沢山いる場所に着いた。二体のラナがローシャンから下りると、ローシャンは自動で、どこかに飛び立った。そこにまた別のローシャンガ、ラナを乗せて飛んで来た。トラキスとアーティミスの所に一体のラナが歩いて来ると、コクピットハッチが開いて、中から一人の騎士が姿を見せると「この近くにデビルトードがいるんだ。奴はまだ我々には気付いていない。静かに待機していてくれ」と言った。それからまた何体かのラナが、ローシャンに乗って飛んで来た。そして更にまた何体かのラナがローシャンに乗って来た。するとリーダー格の騎士が「これだけいれば充分だろう。静かに周りを包囲しろ。合図と同時に攻撃するぞ」と言った。そしてラナ達は歩き始めた。その時エノピオ・ドラータが乗るラナ・ドラータ一号機がラナ・デ・レーチェ二世の肩を叩いた。トラキスが振り返ると、エノピオが「君はまだ若いから、下がって安全な所に行っていろ」と言ったので、ラナ・デ・レーチェ二世は、少し離れた所に行った。

 

 トラキスを除いた全員がデビルトードを包囲すると、合図と共に、一斉にデビルトードと戦い始めた。ラナの身長は大体10メートルから16メートルまでで、12メートル前後が多くて、20メートルのラナも何体かいたが、デビルトードの身長は40メートルくらいであった。攻撃を受けたデビルトードは、ダメージは受けるのだが、破損箇所から小さいマジックハンドが沢山出て、自動で修理と改良をしてしまうので、前より強い体になって回復していた。右肩に一丁の大砲を設置したラナがデビルトードーに肉迫したが、捕まって抱き締められた。強い力で抱き締めたので、デビルトードの腕と腹部と、大砲付きのラナが潰れ始めたが、デビルトードは破損箇所から無数のマジックハンドが出て修理し始めて、大砲付きのラナは壊れていく一方で、デビルトードの体内に押し込まれた。デビルトードは敵を間然に吸収して、無傷で両手で胸をガードするような格好になった後、腕を広げて顔を上げた。するとデビルトードの全身にひびが入って、傷口が開いて、同時にマジックハンドが新しい装甲板を作って隙間を埋め始めた。デビルトードは少し太って背が高くなった。全身のひびが塞がると、右肩が内側から破裂して大砲が生えてきた。そして、人間は消化できないので、ラナに乗ってた騎士を口から吐き出した。それからデビルトードは肩の大砲を連射し始め、同時に左肩からも、同じ大砲が生えてきて、指も破裂して、代わりに小さい大砲で出来た新しい指が生えた。そして左肩の大砲と両手の指の方向からも連射し始めて、多くのラナがダメージを負った。流れ弾で、ラナ・デ・レーチェ二世も、両脚が吹き飛んだ。トラキスがラナ・デ・レーチェ二世を操作すると、両腕で上半身を起して、デビルトードの方に体を向けて、左胸から反陽子砲を発射して、デビルトードを撃った。するとデビルトードは大ダメージを受けて動かなくなった。すると一人の騎士が「奴はまだ滅んでいない! 今のをもう一回撃て!!」と言ったが、ラナ・デ・レーチェ二世の反陽子方は砲身が焼けていて撃てなかった。

 

 先の戦闘で、沢山のラナ達が傷ついたが、トラキスのラナ・デ・レーチェ二世が、一番軽症であったので、ラナ・デ・レーチェ二世が、対デビルトード戦の切り札として選ばれた。大破した両脚を付け根から取り外して、代わりにフクロウ型のロケットを取り付けた。そして背中にもブロックを取り付けて、そのブロックの左右にも、フクロウ型のロケットを取り付けた。胸にはナマズの上半身に似た形の、大出力ジェネレーターを取り付けた。右肩には長大な、連射が可能な反陽子砲が付けられた。左肩には、磁力を発生させて敵の反陽子ビームを弾き返すフライパンが設置された。そして左腕の肘から先は破損していたので、前腕部の代わりに、陽電子ビームを発射するイソギンチャクが付けられた。修理が完了したので、トラキスはラナ・デ・レーチェ二世に乗り込んだ。すると正方形のスクリーンが四枚だけだったコクピットが、床以外の全ての方向を、17枚の正方形のスクリーンと、8枚の正三角形のスクリーンでカバーして、真下以外の全ての方向を見る事が出来るようになっていた。トラキスは驚いて「ぼくが描いた設計図の通りになってるけど、値段が凄く高くなるでしょう!」と言った。すると整備士は「費用は国から出るので無料だよ」と言った。

 

 ラナ・デ・レーチェ二世は、四つのフクロウ型ロケットから噴射して飛び立った。その時、既にダメージを回復したデビルトードは、身長が60メートル程になっていた。デビルトードは、ラナ・デ・レーチェ二世を見つけた。その時、周囲の離れた場所で、騎士達がデビルトードの注意を引くために、岩に隠れながら、威力が無いビームを発射してデビルトードを撃った。ラナ・デ・レーチェ二世は、右肩の反陽子砲で撃ったが、反陽子ビームへの耐性を身に付けたデビルトードは、少ししか傷つかなかった。ラナ・デ・レーチェ二世は、反陽子砲を連射した。するとデビルトードの再生能力が間に合わなくて、少しずつ小さくなっていった。しかし凄まじいエネルギーなので、周囲の気温が上がって、騎士達は退避した。その後も続けて反陽子砲を撃ち続けた。デビルトードは更に小さくなって、最後には消滅した。

 

 その夜、騎士達は城で、祝賀パーティーで食事をしていた。トラキスは厨房の一角を借りて、チョコレートを熱で融かして型に流し込んで、沢山のチョコレート菓子を作ると、騎士達に配った。セウェンミズガエルに似たラナ・ダックヮ・セウェンカスに乗るロメオ・ダックヮ・セウェンカスは「俺は明日から嫁を探しに行くぞ」と言い、周りの騎士達が冷やかした。トラキスは「ぼくは父を探しに行きます」と言った。やがて城に王が到着した。トラキスは呼ばれて王の前に行った。すると王は「トラキセファロ・デ・レーチェ・レシニフィクトリスよ。デビルトード退治ご苦労であった。そなたをここで騎士に任命する」と言って、お辞儀をしているトラキスの肩を、三回剣で軽く叩いた。

 

 翌朝、トラキスが出発の準備をしていると、アーティミスが来て「あなたが騎士に相応しい実力を付けるまで私が鍛える」と言った。そして二人はそれぞれのラナに乗って、共に旅立った。